地方企業と大学との結び付きが、人材エンゲージメントを強くする
2022.11.09
──COC+R特別セミナーで確認された、「企業と学び」の重要性
2022年10月8日(土)、文部科学省事業「大学による地方創生人材教育プログラム構築事業(COC+R)の特別セミナーが、オンラインにて開催されました。注目の高まる「人材エンゲージメント」を、地方においてどう強化していくか。「中小企業庁 はばたく中小企業300社(2021年)」に選定された企業で実践されている取組や事例を、当事者である企業経営者の皆さんから紹介し、パネルディスカッションを行いました。当日の模様を、ダイジェストでお伝えします。
進行役は、信州大学の末富雅之特任教授が務めました。
今、企業はエンゲージメントとどう向き合っているか
まず幹事校である信州大学の矢野俊介特任教授がCOC+Rの概略について説明。実施したプロジェクト、現在進行中の事業、そしてセミナーの主題である人材エンゲージメントの強化を、地方企業はどんな意識や施策で進めているか。各セッションを通じてそれらを明らかにしていくことを、イントロとして語りました。
出口(就職先)までが一体となった教育プログラム事業・COC+Rにとって、大学の人材育成機能の強化は、近い将来の地域活性化に連なる重要なファクターです。そこで人材を迎える企業側の実情を知ることも必要となります。まずは基調講演の語り手として、株式会社みやまの百瀬真希代表取締役を紹介。そしてその後のプログラムについてのアジェンダも説明し、中身の濃いセミナーを予感させるスタートとなりました。
「愛される企業」になるため、社員全員のビジョンを共有〜基調講演
基調講演は、株式会社みやま代表取締役の百瀬真希氏。高精度な金型作りを行っている茅野市の企業です。百瀬氏は社長就任時、「愛される人になり 愛される製品を作り 愛される企業となる」をスローガンに。どんな会社にしたいかを考えた時、事業は「人」が成り立たせていると気付きました。そこで社長を務める予想年数を第1期から第3期まで5年ずつに分け、それぞれの期間に、「芽を出し根を張る」「幹を強化し花を咲かす」「実がなり次世代へつなげる」という目標を当てはめました。現在は幹を強化する第2期です。第1期スタート時、一人一人がどう成長し根を完成させていくか社員とディスカッションして「唯一無二の強いものづくり技術確立」をミッションとし、各年にスローガンを提唱。それを社員と共有していくという施策を取りました。その結果、業績以外にも人材面や環境面で満足いく結果が得られたと百瀬氏。
また仕事の目的意識を4段階に分け、「他者への貢献」を最上のものと捉えました。実は会社を引き継いだ時、競合会社とのせめぎ合いで苦戦し、社員数も大幅に減ってしまっていました。社内を覆う諦めムードを回復するには「うちはいい会社だ」と言ってもらえる企業にすること。他者に貢献できる人財を育て、愛される企業になるためには、社員全員が目指したい未来のビジョンを共有し動かしていく。そうすれば次世代へのバトンタッチも見えてきます。
ものづくりの会社に限らず、参考にできるヒントが散りばめられた講演でした。
経済の構造転換がもたらす人材戦略〜特別講演
続いて、中小企業庁経営支援部 技術・経営革新課課長補佐の玉井良憲氏が登壇。「はばたく地域中小企業の提供価値の類型とその特徴、今後の経営に求められるもの」と題した特別講演を行いました。
玉井氏の部署で「はばたく中小企業・小規模事業者300社(商店街30選)」の選定を行っていること、表彰を経済産業大臣が行う主要な位置にあることを解説。生産性向上・需要獲得・人材育成の3部門が評価軸であると語りました。表彰企業の中から長野県以外の3社(福岡県と栃木県)を紹介。社員自身の経営参加意識が強い、技術を活かした多角的ビジネス、同業他社とのグループ体制確立といった際立った点が評価された企業です。
次に、これからの中小企業に求められる要素を様々な考察から導き出し、企業が自走化することが稼ぐ力を向上させると述べました。背景には日本経済の構造転換があり、各層での変革が不可欠だからです。さらに、日本企業の99.7%を占める中小企業があるべき方向性に導く潜在力を持っている、その基盤は人材であると結論付けました。人的能力を引き上げていくために、地方の大学がイノベーション・地域連携の核として重要なプレイヤーになっているのでは、と論旨を展開しました。
長野の「はばたく企業」それぞれの事例
休憩をはさんで再開されたのは、「はばたく地域中小企業の事例」紹介動画です。長野県内の3社を取材し、各社の社長が今回選定されたポイントについて語りました。
●株式会社ニットー 代表取締役社長 牧 恵一郎氏
超精密平面研磨や光学ガラスを製造し、有機ELに関しては世界シェアの9割を占めています。「世の中に認められ必要とされる」の企業理念の通り、環境やお客様のためになる技術・製品・サービスを優先。理念は部門長を通じて社員と共有し、理解されています。賃金制度を実績主義にしたり、提案制度を作ったりといった施策が功を奏しているのではないでしょうか。
●株式会社コヤマ 代表取締役社長 百瀬真二郎氏
金属の鋳造を行っている会社で、大都市圏と距離があるハンディをトップクラスの技術力で補っています。また木材の加工屑を活用するバイオブリケット事業を10年前から実施し、地域内で循環できる持続可能な事業となりました。小学生の工場見学を積極的に実施するなど、ものづくりへの興味を呼び起こし、自分たちも改めて学び直す機会にもなっています。
●株式会社タカギセイコー 代表取締役社長 髙木一成氏
眼科の医療機器専門メーカーで、世界的な評価もいただいています。ものづくりへ強くこだわり、医療機械を通じて人の健康に貢献できていると思います。若手からベテランまで活躍し続けられる人事制度に改革し、他社との協働ビジネスにも挑んでいます。ダイバーシティも含め、最初から最後まで「人」が大切と信じて進んでいきます。
エンゲージメントを高める3つの秘訣が見えてきた〜事例考察
次に、上記3社の社長からの話を聞き、感じたことを信州大学助教の西田尚子氏がコメントしました。
ニットーは「世界に認められ必要とされる」点。社会課題に対応している他、世界の産業の基盤を創っているという思いを、社員と共有していることがうかがえる。
コヤマは、業界トップクラスの技術力が社員の誇りを醸成している。チャレンジする社内風土や地域の未来創造に寄与、小学校の工場見学によって得られる気付きが、社員のやりがいにつながっている。
タカギセイコーは、目の重要性を踏まえた社会意義を全員で共感して、エンゲージメントを向上させている。そしてMade in Naganoの部材を世界へ、との貢献感が誇りと価値を生んでいる。
エンゲージメントを高める3つの秘訣として、企業の存在意義や社会的位置付けなどの「パーパス」、Made in Naganoや大学との「地域連携」、そして実行性による共感「トランスフォーメーション」を挙げ、ラップアップしてくれました。
地域の中で大学をどう機能させるかがキーとなる〜パネルディスカッション
セミナーの最後は、関係者によるパネルディスカッション。ファシリテーターは、信州大学特任教授の山本美樹夫氏。パネリストとして、株式会社ロイヤルオートサービス代表取締役社長・中田忠章氏、協同組合全国企業振興センター(IKOC)理事長・田中尚人氏、信州大学副学長・林靖人氏、コメンテーターとして株式会社みやま代表取締役社長・百瀬真希氏、信州大学令和3年度卒業生・浅川雄介氏の計6名がリモートにより顔を揃えました。
冒頭で「話題提供」として、ロイヤルオートサービスの中田氏が、幹部候補社員たちに学びの機会を提供することで起きた変革をプレゼンテーション。人を育てるマネジメントを学び、激変の自動車業界に対応できるエンゲージメントを高められたと語りました。「変革により未来をポジティブに捉えられた」との言葉が印象的です。
同じく話題提供として、IKOCの田中氏は石川県と富山県で行っている地域セクターとの協働による学びのプログラムを紹介しました。産官学金が連携し、お互いが学び合うことで同期生の感覚が芽生え仲間意識も強まったといいます。普段来ない有能な人材を地元にマッチングできるプログラムです。
信州大学の林氏は、日本は人口減少の最先端にいて、長期的な視点で変化に対応すべし。大学側から企業へ入り込むという行動変革も必要である。時代を創るために、大学生と大人世代の橋渡しをしたいと自らの立場を示しました。
みやまの百瀬氏は、パーパスを社員一人一人に理解してもらうため、ディスカッションしてビジョンを確認し合ったと話しました。また、大学との関わりの中で自分たちの未来を見ることができ、前向きの力をもらったことも話してくれました。
信州大学を卒業したばかりの浅川氏は、学生時代いろいろな企業や地域で思うままに質問し、先方が気付いていなかった強みなどを浮き彫りにした経験を話しました。その中から、変革に強い企業の一員になりたい思いが生まれ、今に至っているとのことです。
締めくくりに、大学に対するそれぞれの思いを述べ、大学のエンゲージメントの広さと学問分野としての地方創生の重要性がはっきりとした形で示されて、パネルディスカッションは終了しました。
閉会挨拶は一般社団法人長野県経営者協会の犛山(うしやま)典生氏が務め、3時間近くに及ぶ特別セミナーは幕を閉じました。
※シンポジウムの動画や基調講演で使用したスライドは、COC+R会員の皆様に視聴・配布しております。
●企業が成長するための人財エンゲージメントの高め方 動画