パネルディスカッション① COC+R事業から見えてきた成果と課題 〜学生の視点から~ – COC+R 令和5年度全国シンポジウム

出口〜地元就職への意識変革に影響がある因子とは?

パネルディスカッション①は、COC+R事業を実施している4つの大学から、プログラムに参加した学生にパネリストとして登場してもらいました。地元就職意向は大学入学前、プログラム受講、現在という各段階でどのように変化し、その因子は何だったかをグラフ化して発表しました。その内容は「事業取組レポート」でもご紹介していますが、この記事ではファシリテーターの末冨雅之特任教授との意見交換をメインにレポートしていきます。

※『事業取組レポート』も併せてご覧ください

はじめに〜4人の学生の意識はどう変化していったか

パネルディスカッションの前半は、4人それぞれの意識変化のグラフを出し、入学前・入学〜プログラム受講前〜プログラム受講後〜現在の就職意向の変化を説明しました。

 

徳島大学 総合科学部社会総合科学科 鶴本 雄大さん(2年)

  • やや都会志向から現在は地域志向へ

徳島出身の地元入学で、入学前と入学〜プログラム受講前は、漠然とした都会への憧れを持っていました。受講後は地域企業と都会企業が半々。現在は地域企業への意向が高まっています。

 

信州大学 人文学部 木口屋 和人さん(3年)

  • 都会企業から振れ幅大きく地域企業へ

東京都出身で卒業後は東京へ戻ると思っていましたから、プログラム受講前までは完全に都会企業への意向。受講後に意識の変化があり、現在は地域企業への意向が高くなりました。

 

山梨県立大学 国際政策学部 遠藤 美湖さん(3年)

  • 都会から地域へ変化するも再び変化

山梨県出身で地元の県立大学へ。デザイン系志望なので都会企業への意向が強く、プログラム受講後は地元のポテンシャルに気付いたものの、留学も考えているため現在は中立に近い意識へ変わってきました。

 

岡山県立大学 情報系工学研究科 藤野 真尚さん(大学院1年)

  • 地方と都会それぞれの魅力が悩みを増幅

山口県生まれ。情報系を専攻しているので都会就職の意向が強かったのですが、プログラムで地域企業へ傾きました。しかし実際に都会を訪れて両方の魅力を知り、どちらの働き方がいいのか悩んでいます。

 

影響度大の因子は何だったか

末冨 地元就職数をYとすると、Y=ax+bという式を用いプログラムを受講したことで地元就職意向はどう変化したかを axを構成する因子として企業、大学、学生の3つの区分に分けた中分類、小分類の因子と影響が大きかったカリキュラムを紐付け、どのようなことが影響が大きかったかを聞いていきたいと思います。4人のうち2人が地元、2人は他からの大学入学ということですが、皆さんプログラム受講前までは都会企業への就職意向でした。それが、プログラム受講後はポンと地域企業寄りに上がってるんですね。間違いなくプログラムによって地元への就職意向が増えています。

鶴本 影響の大きい因子は、実践型インターンシップです。経営型も地域型も、自己成長を感じ取ることができました。エクスターンシップは企業の魅力に影響を与えました。企業に飛び込んでいったとき、この企業は魅力的で働きたいという気持ちが芽生えました。そして地域の課題を見つけたとき、それをやりたいと思いました。

木口屋 プログラムをきっかけにして地域に目が向きました。影響が大きかったのは、まちづくり会社でのインターンシップを通じて感じた、行きたくなる魅力、住みたくなる地域生活、地域に出るアクションとしてのコンピテンシーです。その会社は辰野町というところにあって、初夏は2万匹の蛍が飛ぶことで有名なのですが、普段はシャッター街です。そこを面白くしていき、行きたくなる魅力をつくり出しています。そんなこだわりを持って地域に根ざしている企業でした。

遠藤 コンピテンシーのグローバルマインドとスキルで、地元からアクションを起こそうという影響を大きく受けました。自己成長の因子では、起業キャンプや外国人との芸術活動プロジェクトです。小さい頃から憧れていた国際的な活動は、地元山梨にいてもできることを知りました。県内で活躍している人のワークショップに足を運んで参加してといった、何かやってみたいと思ったらすぐに行動できるフィールドがあることに、山梨のポテンシャルを感じました。

藤野 創造戦略プロジェクトで、言われたことだけではなく自分たちからプラスαを付けられるということに魅力を感じて、影響が大きかったところです。話しやすい雰囲気を大切にしていて、1人の天才に頼るのではなく社内にいろいろ専門性を持った方々がいます。そんな人たちから話を聞いて課題解決に繋げられるいい雰囲気の会社だと思いました。コンピテンシーの部分では、実際解決できていない課題に取り組むことを通じて、地域企業に就職するのもいいなと考えるようになりました。

末冨 4人の話を聞いて、影響の大きい因子は自己成長、企業の魅力、コンピテンシーの中で当事者意識というところだと思いました。企業の魅力を知って当事者意識を高めて自己成長に繋げるということですね。

 

地元就職意向が上がった理由・下がった理由

末冨 プログラム受講後を見ると、地域への就職意向が上がり続けている2人と下がった2人がいます。プログラムだけでは地域就職を実現するにはまだハードルがあるのかと思います。

鶴本 私は上がっているんですが、インターン中に地域の方と関わって、そこから交流があり、この地域の魅力をもっと知ることができたからだと思います。

木口屋 プログラムでは、地域へ出るハウ・トゥを学んで中立なところまで上がり、現在はそこからさらに上がっています。それは、自分で行って自分で見てきたからだと思います。

遠藤 プログラムで地元を知ることができた量が多く、それが上がった理由です。でもこれから海外留学の機会もあるので、まだ外のことを知らないだけかなという意味もあってまた中立に戻りました。

藤野 プログラムの後、都会企業と地域企業両方のインターンシップに参加して中立に戻りました。規模の大きさへの期待や自分がやりたいことの実現性もあって、都会企業もいいと思いました。反面、地域企業は目立ってはいないけれど高い技術力を持つ企業も多く、新卒からそこで経験を積めるのもいいかと思って迷っています。

 

不安を越え「また戻ってきたい」が成果に

末冨 実際、地域企業に就職を決めようと思った時、どんなことが不安でしょうか。

木口屋 町づくりに積極的で輝いている人を見ていると、自分で稼げている印象があります。でも、社会人経験もまだない新卒がそこに出て行った時に稼げるのかということに不安を感じています。地域であればあるほど自分のことは自分でやらなければならないというイメージがあります。もう少し修業してからでも、ということも思います。

鶴本 規模の小さい地域企業は、新卒より経験者の中途採用が前提ということもあり、新卒で就職するのは難しいかなと思っています。一度大手へ入って経験を積んでからでないと、というのが不安点です。

遠藤 地域就職の不安点は、都会に比べた時のスピード感、職種のバリエーション、コミュニティの狭さがマイナスになるといった3つがあると思っています。そういったことを避けるなら、都会に出てしまった方がいいのではないでしょうか。

藤野 電子情報系メーカーが地方に少ないことです。良く言えば自分で色々なことをやらせてもらえるかもしれませんが、反面、知識を得にくいことがあると思います。私自身色々な方から話を聞いて仕事をしたいので、まずは人材が多い場所の方が働きやすいのかなと感じています。

末冨 まだ力不足で、都会の大企業の方が力を付けやすいのではと思っているようです。そう言いながらも、力が付いたら戻ってきたいでしょうか。

鶴本 プログラムで地域企業と関わって、自分の軸の中にそれが組み込まれた気がします。ですから、多分大手に行っても戻ってくるのかなと思っています。

遠藤 私も最終的には絶対、山梨県に戻ってくると思います。東京で生活している自分の姿が考えられなくて、ゆったりした感じや人の温かさがある山梨で暮らしたいです。

藤野 都会の企業に就職して経験を積んで、本当に自分がやりたいことが見つかった時、それが地域の企業でもできるのであれば、戻るのはありだと考えています。

末冨 プログラムがきっかけで地域就職意向が高まったけれど、まだ決めきれないかもしれません。しかし、いずれ戻りたいという言葉は、実はすごいことだと思います。COC+Rは新卒で地域就職というプログラムですが、この学びによって一度出て行ってもまた戻るというのも大きな成果ではないでしょうか。地域企業にストレートに就職するためにはまだまだ課題はあります。今日の4人の皆さんをモデルにして、多くの学生に「戻りたい」と思ってもらうために、さらに地域を魅力的することがこれから更に求められるのではないでしょうか?

この「地域を魅力的にする」ことについては、パネルディスカッション②のテーマとして更に議論いただきたいと思います。

登壇いただいた学生の皆さん、ありがとうございました。