大学がその役割を果たせば、未来は決まる ──ローカルESGの重要性とは

 COC+R全国シンポジウムでの基調講演は、(株) ニューラル代表取締役CEOの夫馬賢治氏が「ローカルESG、これまでの延長線ではない産官学金の連携による、その地域らしい地方創生に向け、地方大学が果たすべき役割とは?」をテーマに行いました。サステナビリティ経営・ESG投資コンサルティング会社を運営する夫馬氏にしか語れない、ESG投資に関する世界と日本の現状や大学がそこで果たす使命などを、豊富な資料をひもといて展開。ESGをコアとする経済変革は日本でもすぐそこまで迫っていることを、つまびらかにしていただきました。

「ま・ひ・し」頼りでは明るい未来はない

 (株) ニューラル代表取締役CEOの夫馬賢治です。ローカルESGとその地域らしい地方創生、そして大学との関わりについてお話しします。今まで、地方創生は「まち・ひと・しごと」というスローガンの元に進められてきました。しかしその「ま・ひ・し」では全く歯が立たない時代が来ています。もっとグローバルな視野に立って見なければ、特に地方の企業経営者にとって明るい未来は来ません。

 そこで今主流になっているのがESG(Environmental Social Governance=環境・社会・ガバナンス)というキーワードです。サステナビリティの代名詞ともなっていて、SDGsが掲げている目標とも重なっています。そしてEGSは、これからの金融、経済を語る上で欠かせない要素として注目されているのです。

 EGSが大学の人材育成・輩出とどのようにつながってくるか、この基調講演でご説明します。

気候変動は世界経済を破壊する

 EGSを語る時、まず世界経済界で恐れられている要素を挙げてみましょう。異常気象、生活多様性の喪失、環境リスクがワースト3です。特に異常気象は気候変動を招き、気温の上昇につながり、大きな災害を招いています。大型台風の多発、洪水、土砂崩れ、山火事……。東日本大震災クラスの被害が毎年発生している状況下、経済界はその損害に耐えられなくなってきています。2150年には海面が5メートル上昇する予測もあります。海外では洪水頻発リスクや海面上昇リスクを参考に都市開発を行うようになりましたが、日本ではそれらへの対策は国レベルでも行われていません。

 気候変動は、感染症の増加も招きます。ジカウィルス、インフルエンザ、そして新型コロナウイルスでの健康リスクは経済の停滞につながっています。

ESG投資はリターンを増加させる

 欧米の金融当局は、気候変動が破壊的な金融危機を起こすと予測しています。環境関連の省庁だけに任せておかず、金融当局自らがESGを推進する企業への投資を進める政策へ舵を切りました。そして機関投資家は、投資対象企業の取引先もカーボンニュートラルに取り組んでいるかどうかを重視。バリューチェーン全体でESGを推進しているかどうかを判断基準としているのです。

 経済は従来の短期的展望から、社会と環境を基盤にした長期的展望へとシフトしつつあります。しかし、ESG推進企業への投資が本当にリターン増につながるか疑問視する意見があるのは確かです。そこで、ESG投資についての研究論文を精査したところ、リターン増となる論文は約半数に上りました。対して、否定的な論文は10%程度でした。従って、ESGインデックスは高リターンと認識されていると言えるでしょう。ESGに熱心な企業をセレクトした投信も発売されています。

立ち後れた日本、その課題は

 では、日本の状況はどうでしょう。人口減が進む中、日本の労働力は過去10年間女性と高齢者でカバーしてきました。女性の社会進出と高齢者の就労率上昇がその背景にあります。しかしそれも頭打ちとなり、2020年代から本格的な人手不足時代に入りました。

 さらに、労働力の質を見る世界人材ランキングで、日本は39位。アジアの中では香港やシンガポールに遅れを取っています。どこに課題があるかを検証してみると、教育支出、女性の労働力、国際経験、大学教育の競争力などの世界ランキングが下位に低迷していることがわかりました。教育環境の課題は非常に大きいと言えます。

 また、「今の勤務先で将来必要なスキルを学べるか」という調査では、日本は最下位でした。働く場所そのものも変えていかないと、明るい未来はありません。

少しずつ前に進んでいることの実例

 今まで日本において、ESGはCSRのような社会貢献的な意味でしか捉えられてきませんでした。社会課題の解決が目的ではなく、「仕方ないから」やっている程度です。しかし、ESGへのシフトが世界の潮流となってきた今、資金調達によってESG対策を進めることで利益を上げ、いいサイクルに持っていく必要があります。

 少しずつではありますが、自治体と地域金融機関が連携した新しい動きも出てきました。例えば、滋賀銀行では他の地銀や県、経済同友会に働きかけて、持続可能な開発融資を進めています。農林中央金庫では、農林水産業を取り巻くサステナビリティの課題解決のため、融資先企業にCO2削減の働きかけを行っています。サッカーJ3のレノファ山口FCは、地銀、自治体と連携し、山口県内の各地域と環境に関する協定を締結しました。

 このように、中央官庁では「何かやらないと」程度の意識でも、地方企業では「自分が動かなければ」という気持ちが強いと感じています。

大学がローカルESGのコアとなる

 では、大学としてESGとどう関わっていけばいいのでしょうか。

 環境省は、地域の金融機関がESG投資によって新たな地域経済活動に導くプランを描いています。自治体、地域企業、地域金融機関が連携する上で、大学の存在が重要となります。解決課題として挙げられている困難なプロジェクトをマネージメントするためには、大学の先生が大きな役割を果たします。地域における多様なプレーヤーとして、企業の人々に会いに行けるし話ができるからです。例えば「ゼロカーボン」という課題を大学が達成することで周囲にも波及させ、その地域をもゼロカーボンへ導くことが可能です。

 こうして大学がローカルESGのハブとなる役割を果たせば、未来は変わります。地方人材の育成と輩出、そして創出されたイノベーションの社会実装。企業の意識が変わりつつある今、大学がどう考えてどのように連携するかが、大きな意味を持つのです。

※シンポジウムの動画や基調講演で使用したスライドは、COC+R会員の皆様に視聴・配布しております

●シンポジウム動画(開会~基調講演)、基調講演スライドの閲覧
https://coc-r.jp/archives/2022/03/3547/