「共創」のコンセプトを大きく広げ、企業との関わりをより強く深く──徳島大学「とくしま創生人材・企業共創プログラム」

2023.03.30

徳島大学が事業責任大学となって推進している「とくしま創生人材・企業共創プログラム」。独自のエクスターンシップを創設し、学習履歴を認証する「マイレージポイント」を導入するなど、ユニークな試みが目を惹く事業です。さらに「コーディネーター」とも連携して、地域企業との関係をより深化させてきました。徳島大学副理事であり、地域連携を担当する山中英生教授に、COC+R事業とコーディネーターの関係性、近い将来の自走化についてお話をうかがいました。

共創教育の価値を確認する「FD地域人材育成フェスタ」

徳島大学、四国大学、四国大学短期大学部、徳島文理大学、徳島工業短期大学、阿南工業高等専門学校の連携によるCOC+R事業「とくしま創生人材・企業共創プログラム」は、タイトルに謳っているように「共創」がキーワードです。COC+(平成27年度から始まった大学による地方創生事業)の後を引き継ぐ事業で、その時代から事業内容を周囲に発信するために「FD*地域人材育成フェスタ」というイベントを開催してきました。山中教授は、「当初は事業報告会的な、学内周知が主な目的でした。COC+Rになりプログラムを変えて、今年はシンポジウムもコンテンツに入れています」と説明します。

今までは関係大学や高専の先生方が中心となって議論をしてきましたが、今回は県内企業の関係者も参加者に加わりました。

「我々はCOC+Rで『企業共創』というキーワードを掲げていますから、関与していただいている、あるいは興味を持っていただいている企業にもきちんと伝えなければと思ったのです」

実際、COC+R事業で多くの企業と関わりができ、効果も現れてきたところです。問合せも増えており、ならばきちんと事業を整理した形で見せ、企業に付加価値を理解してもらおうと、今回の新しいFD地域人材育成フェスタの開催に至ったとのこと。開催されたのは令和5年3月9日で、基調講演の他、共創教育の振り返り、各関係者によるパネルディスカッションも行われました**。

*FD:Faculty Development の略で、「教員が授業内容・方法を改善し、向上させるための組織的な取組の総称」を示す。専門職大学院では2003年度より、大学院では2007年度より、学部では2008年度より実施を義務付けられている。

**FDフェスタについては、イベントレポートも参照のこと。

実践型インターンシップがもたらす共創

事業名に掲げている「共創」は、企業と大学両者にとってのベネフィットを目指すという意図があります。それをどのような分担にするかという議論も生まれました。

「企業だけのためにやってしまったら教育効果をないがしろにしてしまう。ならばベネフィットは互いに分かち合い、学生も企業も一緒に育てましょうと。この事業の目玉として行っている実践型インターンシップは、その企業にプラスをもたらしていますから」

ひとつの課題として、「価値が分かる経営者とそうでない経営者の存在」と山中教授。「いい悪いではなく、問題意識を持って会社自体を変革したいと思っているかどうか。代替わりして、変わらなければという緊迫感を持っている次世代経営者は増えています」

こういった時代の変わり目に加え、求められる学生の専門分野がクロスしています。製造業でも、従来の理系学生だけでなく情報系の学生のニーズが高まってきました。従来の延長ではない学生の採用に変化しているのかもしれません。

「実践型インターンシップがそのまま学生の採用に結びつくのではありませんが、課題解決を考えた時の有用性はとても大きいものがあります。むしろ社会や自社に対するインパクトを期待してもらえると思います」

県内での認知をさらに上げる方策とは

山中教授は、「最近の学生は進路を喋らない」と話します。隠しているというわけではなく、あまりオープンな情報にしてほしくない傾向があるようです。そして、教員に相談せずに就職活動をしているケースもあり、そうなると最後まで進路がわかりません。

「学生にいちばん近い研究室の指導教員が、就職の相談役としてしっかり認識される必要があります。実は最終的に県内就職した学生に聞くと、1年生の時には県内と決めていたというのが8割なんです。早いうちから公言すると幅を狭めてしまう意識があるからかもしれません」

大学ではオープンフォーラムといって、ウェブサイト上にCOC+Rで実施した内容や成果の動画をアップしています。それも学生向け・保護者向け・企業向けとターゲットを絞った編集です。

「何か示唆を与えるためには、絞り込んだターゲットに向けた情報発信が必要です。でないと、単なる一般論になってしまいます」

こうして複数のチャネルを活用してターゲットにリーチさせる。特に学生に向けた内容ならば、出口のことまでしっかりと誘導していくことが重要です。FD地域人材育成フェスタの内容もターゲットごとに切り口を変えることで、就活まで一つの流れに乗せた学びに繋がるのではないでしょうか。

より強くなるコーディネーターの存在感

とくしま創生人材・企業共創プログラムでは、実践型インターンシップの受け入れ企業決定に、「コーディネーター」の存在があります。学生と企業の繋ぎ役となるわけですが、主として教員がこれに当たっています。他の大学にもその仕組みを取り入れて事業を広めたいので,対象になりそうな教員にいろいろな研修を行いました。

「ここで行っている仕組みを実際のカリキュラムに組み入れるとなると、実は相当難しいという結論が出ました。従って、マニュアルを作ってノウハウとして完成させたのです。そこに各大学なりの仕掛けを付けてバージョンを変えていけば、学生を送り出す仕組みができていくと思います」

大学としてコーディネーターをどこに位置付けるかはかなり重要なポイントです。FD地域人材育成フェスタでは実際にコーディネーターとして活動し、成果を上げている各氏がパネルディスカッションに登壇しました。お二人の方が民間の立場でコーディネーションを行っています。実施内容についてはレポートページに譲りますが、それぞれの立ち位置によってやるべき仕事は変わります。そして大学が仕組みを作ることで、どんな形のコーディネーションが必要でどんなコーディネーターをアサインするか決まることがお分かりになるでしょう。

さて、このように大学・企業・学生を繋ぐ存在はインターンシップのみならず、その先の就職に対しても影響をもたらすと思われるかもしれません。しかし、「インターンシップと就職を結び付けようとすると、難しい議論になります。そうではないことを理解してもらうために初めから採用担当が登場するのではなく、その企業のことを知るために来るのだから、例えばエクスターンシップはまだ就職のことも考えていない1年生なので,地域貢献のセクションが担当してもらっても面白いと思いますね」

企業が今後フェーズを変えてくれるよう持っていくのも、コーディネーターの腕ということです。

コーディネーターによって変革されたもの

徳島大学では、経営課題型のコーディネートをFD地域人材育成フェスタにも登壇した川崎克寬氏(一般社団法人Rhizome代表)が担っています。

「川崎さんの場合、コンサルティングに近いところまで踏み込みます。大学と企業の繫がりの深さが全く変わり、今までとは違ったフェーズの繫がりができました。加えて、人を引き込むパーソナリティも大きいです。経営者にズバッとモノを言い、企業の経営ビジョンにも触れる。その一方で学生目線も持っています」

川崎氏を起用したことで産学連携の新しい取組が生まれ、とくしま創生人材・企業共創プログラムの価値を大いに上げてくれたと、大学はじめ運営を執り行っている「コンソーシアムとくしま」も評価しています。

そしてもう一方、地域課題型のコーディネーターの場合は、課題設定の相談に乗り、その後は地域おこし協力隊のメンバーに渡しています。相手の状況を理解して企業や協力隊からのリクエストをどう解釈・解消するかを考えるのがメインとなります。ある程度はパターン化できるので、課題に合ったコーディネーターを起用することになります。徳島大学が抱えているのは、川崎氏を入れて5名のコーディネーター。一人が担当する企業数は、規模によって変わります。企業へ出向いて要望を聞き、プロジェクトを作り上げます。そこまでたどり着くのに月日が必要な場合もあるとのこと。いずれにしても、対話によって全てができ上がっていくと、山中教授は語ります。

自走化を見据えた内製化コーディネーター

COC+R事業は、2年後にその実施期間を終えます。どの大学でも終了後の「自走」に向けた検討が進んでいますが、徳島大学はコーディネーターの存在がキーになりそうです。

「コンソーシアムとくしまもインターンシップも多くの人間が動くのですから、当然人件費がかかります。今の企業から寄付という形では、自走化は見えてきません。以前、何社かの企業の方に、インターンシップへの対価はいくらなら妥当か聞いたことがあります。一番高い企業は100万円という数字が返ってきました。コンサルティングに近いこともしてもらっているので、それくらいの価値はあると。今までやってきたことが無駄ではなかったという自負に繫がりました」

山中教授は、コーディネーターの内製化にも力を入れて行く計画です。現状を維持できるように、効率化を図りつつ内部でまかなう。川崎氏のビジネスモデルも立ち上げてもらい、どれくらいの規模になるかをここ1年で見極めていくと言います。

「そもそも自走化の定義は何かというと、補助金がなくても走っていける状態だと思います。全て外部資金に頼る必要はないかもしれないし、大学の教育システムに組み込めば予算は定常化するでしょう。それは大学の戦略に関わることですが」

COC+Rの目標は単に地元就職を推進するだけではなく、地方創生に繋がる大きなうねりを生み出すこと。そのために山中教授がさらに考えているのが、アントレプレナーの育成です。

徳島をスプリングボードとして世界へ

「この事業は外部から評価されている仕組みであると、実感しています。企業とのコネクションも一つの重要な鍵ですが、学生が小さなプロジェクトをたくさん立ち上げて、それに対する支援をするのももう一つの方法だと思います。前学長の時代からイノベーションへの協力は行ってきました。いくつかのコンテストで賞をもらったり実際に事業化したり」と、山中教授。さらに、起業は徳島にこだわる必要はない、とも語ります。

「地元だけに絞ったアントレプレナーでは、広がりがありません。どこへでも飛び出して行ってほしい。この事業は、学ぶ場が徳島というだけであり、自分の夢を実現するためにはどこを目指してもいいのです。むしろ世界企業を作れと言いたいですね」

一方、世界へ飛び出していくための足元の整備も重要です。卒業後、地元との繫がりを希薄にしないことも考えています。「できるだけ地元の人と親密になっておくために」と、大学をハブにした、枠組みを超えた場所を作ることも視野に入れています。

「大学の構内で、企業の人と学生だけが気軽に会える場所があれば、と思っています。例えばパンとコーヒーを出すカフェとか」──そういったビジョンを生協の人たちとも話しているそうです。

「その場所で生協主催の企業セミナーを開くなどすれば、もっと新しい広がりが見えてきますよね。自走化のヒントは、さまざまな事象の中にあります。見えていることをどう繋ぐかで、未来は全く違ってきます」と締めくくりました。