受講生の「やる気」が学ぶ楽しさを広め、続いていく──山梨県立大学 PENTAS YAMANASHI

2023.03.30

山梨県立大学・山梨大学・山梨英和大学の3校によるプロジェクトが「PENTAS YAMANASHI」。事業協働機関も加わり、学生のみならず社会人にも門戸を開いたユニークな試みです。地方創生人材を育成する5つの教育プログラムは、実践的な科目で構成されていて、関心のある人ならきっと惹き付けられるテーマが並びます。これを牽引する山梨県立大学の杉山歩教授、そして実務家教員の中から山梨県立大学の田中友悟特任助教が、PENTAS YAMANASHIのコアな部分、そしてこれからのことを語ります。

多様・多彩な人材が講座の実務を魅力あるものに

「PENTAS」とは、夏に星型の花を咲かせる植物の名で、花言葉は「希望が叶う」「願いごと」「博愛」。この名を取った「PENTAS YAMANASHI(以下、PENTAS)」は、山梨の地からそれぞれの希望を叶えていく願いがこもっています。「VUCA時代の成長戦略を支える実践的教育プログラム」として、令和2年度、山梨県立大学が提案してCOC+Rに採択。そして2年が経過しました。参加大学は他に山梨大学と山梨英和大学の2校。5つあるプログラムで特徴的なのは、地域で実践的な活動をしている人たちが実務家教員として加わっていることです。また、社会人も履修することができ、社会人講座の側面も持っています。

「特任教授としてやっていただいているのは、山梨県を中心とした地域で実際に活躍している方々です。山梨のオールスターと言ってもいいでしょう。そこからまた別の人を紹介してもらってオファーをすることもありますね。それから、講義内容が一方通行にならないよう、受講生との対話に気を配っていただける方がいいかなとも思います。『この人だ』という直感で決めることもしていますね」

外部の実践者と大学とを繋げることで、PENTASはより効果的に動いていきます。実践者は老舗高級ホテルの元日本支配人、ソムリエ協会理事、農業法人代表、脚本家、アートディレクターなど多岐にわたります。

社会人がいてくれることでより現実感が強く

今回、「地域づくり加速化人材育成プログラム」で3科目を受け持っている、田中友悟特任助教にも具体的な授業内容についてお聞きしました。一般社団法人山梨市ふるさと振興機構を立ち上げ、地域づくりのプロとして活躍しています。

「対話の場を構築する『ワークショップデザイン』、自分とまちづくりがどう結ばれるかを学ぶ『まちづくりの思想と技術』、企画立案提案力を学ぶ『ローカルデザイン実践演習』の3科目を持っています。令和4年度から高校生も履修ができるようになり、山梨県立大学に進学した場合は修了科目を単位に組み込めます。他にはあまりない幅広い年代のプログラムです」

そこでは、さまざまな気付きが得られると、田中特任助教。

「昨年度の場合は、自治体や銀行の人も入ってくださいました。学生にとっておぼろげなイメージだった実務のイメージを具体的に数字や言葉で見せてくれます」

立場の異なる受講生が交流することで、互いにリスペクトしながら物事が考えられると続けます。また、他の業種と連携させていく形も取りつつあります。

「山梨市の政策秘書課の事業と連動させていきました。会話の場を作っていくために、ビッグデータに基づいてサンプルを設定し、そのテーマでトーク。問題解決の力を練ることができました」

次年度は、現場により近いゲストを呼ぶなどしてもう少し自分のキャリアとひも付けられるようにしたい、とも考えているそうです。

ブレイクスルーを起こす、それが解決を加速する

PENTASを受講している社会人には、学び直しを目的としている人も多いそう。例えば、製造業の経営者がPENTASに共感し、若手社員教育の一環として参加させている例もあります。

「ちゃんと育ってほしいから、経営者はPENTASを活用しようと。これからを支えるZ世代を育てられるし、自分も変わることができる。そうするとその間の幹部も変わらなきゃいけなくなります。これによって会社の流れが良くなるのでは」と、杉山教授。

学び直しという面では、最近は社会人のリスキリングが重視される傾向にあります。杉山教授はこれに対して「もう少し長期的視点で考えていけばいい。その場で受けが良かったから続くとは限らないし。地域のことを真剣に考えている人を選定して講師にしていくことで、PENTASの本質からずれず、いい人材が育っていきます」と意見を述べました。杉山教授の語り口は冷静ですが熱い思いは言葉の端々に現れ、いろいろなことと「闘っている」と感じました。

やはり地域との連携が鍵となるようで、今互いに感じている課題についてより突っ込んで話し合い、それを壊す。ブレイクスルーを起こすことで、課題解決のスピードは加速していくでしょう。

正規科目には昇格した。しかしまだこれから

PENTASは、令和4年度には山梨県立大学のカリキュラムで正規の教養科目に昇格しました。それによって、事業の自走化に繋がるのでしょうか?

「受講料の収入では、おそらく完全な自走化には不足するでしょう。そこで、様々な機関や事業と連携しながら自走化実現を詰めていければと思っています。安定した予算を確保していくことも視野に入れつつ、大学側との細かい調整も進めていく必要があります。」

PENTASは5年後、10年後、どうやって進んでいるか。安定的に続いていくのが理想です。「目星は付いている」と杉山教授。特に、山梨大学と共同して令和4年度に採択を受けた『SPARC*』事業との連携・コラボレーションは、実務的にも大きな可能性を持っていると言えるでしょう。

*SPARC:文部科学省が進める地域活性化人材育成事業。大学等が地域の中核として機能していくため、地域社会と大学間の連携を通じて既存の教育プログラムを再構築、地域が求める人材を育成する機関となることを目的としている。山梨県においては山梨大学が事業責任校となり、山梨県立大学が参加。

授業の真剣さ、そして見える次のフェーズ

現在、PENTASを受講している学生は100名ほど。山梨県立大学の学生数は1000人程度なので、約1割ということに。この1割が他の9割に与える影響について、杉山教授は語ります。

「やはり授業よりバイト優先という学生は多いんです。PENTAS受講生がその人たちを変えてくれるように育成するということも課題のひとつですね。話の中で、『PENTASの授業は面白いよ』という話題が出ることもあるでしょう。そのコミュニケーションに期待できます」

例えば具体的な内容として、身近な店や会社の人が講座を持っているとか、ワークショップで自分たちの町を回ったとか、興味を惹くリアルな声が大きな意味を持ちます。

田中特任助教も、「生まれ育った町で、やりたいことを仕事としてやる。PENTASはそのためのキャリア教育として位置付けられるのは面白いです。ちゃんと地元に繋がる道を作ってあげたい」と話します。

そして杉山教授には、今の3大学以外にも参加校を増やしていければ、との思いがあります。PENTAS受講生や修了生が増えていくことで、それ以外の学生への影響力はじわじわと強くなっていくことでしょう。

大学で学ぶ楽しさにみんなが気付くために

「PENTASが教養科目になったことで、それをきっかけとして興味に火の付く学生は5割くらいいると見ています。そのうち2割が受講するとして、全体では2割弱。その学生たちをいかに取り込むかですね」

必ずしも数は大幅に増えなくてもいい、と続ける杉山教授。「何となくダラッと生きている人たちが、本気でやらなきゃダメと思ってくれることが一番大切です」

それは社会人にも言えること。第二の学生生活を送ることで、これからに必要な気付きを得られます。お題目ではないリカレント教育が意味を持つ場となるでしょう。

さらに、高校生についても触れ、杉山教授はこう言います。

「高校生を受け入れて1年目で、まだよく見えてこないんですが、掴まえていく層は高校に馴染めない生徒たちかなと感じています。受験勉強をやる意味に疑問を持っているとか、この勉強でいいのかと思っている。それとは違う学びを提供できるのが、PENTASです。模試とは関係なく山梨県立大学で学びたいと入学してくれば、1年生の時からフルスロットルで頑張れるようになります」

PENTASが何をやっているかしっかりと伝えていく。そして何をやりたいかを見つけ、学ぶことが楽しいから大学に行くという道筋を作ること。COC+Rの目標である地域に根ざした人材育成は、実は大学入学以前から始まっているのかもしれません。