偏差値だけにとどまらず、時代の変化に合わせて多様な評価軸を【分科会④】

 分科会④ではリクルート進学総研所長・リクルート「カレッジマネジメント」編集長の小林浩氏と株式会社ようび代表取締役の大島正幸氏をスピーカーとして招き、「COVID-19以降に求められる人材育成の変化とは? 〜地方だからこそ挑戦出来る、これからの人材育成〜」をテーマに意見交換しました。ファシリテーターは信州大学教授の林靖人氏が務めました。

オンラインのプラス面とマイナス面とは

 林氏はまず、COVID-19によって対面する場面が減り、ZOOMなどのオンライン会議システムが多用される中、そのメリットとデメリットについて二人に問いかけました。

 大島氏は「オンラインは情報共有はできるが、ニュアンスの共有は難しい。また、新入社員がリモートワークでいきなり成果を上げることは難しいが、経験を積んだ社員なら生産性を上げることもできる」とした上で、対面とオンラインの長所と短所をしっかり評価し、使い分けることの重要性を強調しました。

 小林氏は「2倍速で見れば半分の時間で済み、分からなければ繰り返し見ることもできる。

知識を習得するにはオンラインが効率的」と述べた一方、先生やサークルの友達など、人とのつながりが希薄になってしまった分、特に大学1年生は不安を感じていると指摘しました。また、オンラインは対面に比べ、セレンディピティ(偶発的な出会いや予想外の発見)も得にくいこともデメリットの一つと指摘しました。

 これを受け林氏は「エデュケーションエクスペリエンスはオンラインで提供できても、ラーニングエクスペリエンス、つまり主体的に学ぶ場の提供が難しく、これをいかに提供するかが課題」との見方を示しました。

都市か地方かの二元論でなく、主体的な選択こそがポイント

 林氏は分科会④のサブテーマになっている「地方だからこそできる挑戦」について意見を聞きました。

 これに対して岡山県で起業した大島氏は「地方では東京で事業を行う際の3カ月分の資金で1年くらい戦える。つまりイノベーションへの挑戦が4倍できる可能性がある」と地方の優位性を挙げました。また田舎は不便ではという問いかけに対しては通信環境が整っており、物流網も発達しているほか、時間距離的には首都圏からそれほど離れていないため、「全然問題ない」と断言しました。

 一方、神奈川県在住の小林氏は「東京は生活コストが高いが、あらゆるものが集まりダイナミズムがある」としながら、東京よりも静岡の日本語学校に通った外国人学生の方が満足度が高かった事例を紹介し、都会とは異なる地方内でのコミュニティの密度の充実ぶりがその要因になっているとの認識を示しました。

 また、大島氏が都市か地方かの二元論で議論していては世界に遅れを取ると問題提起すると、林氏は「何を目的としてその場所にいるかが重要。都市であれ地方であれ、主体的に選択することがポイントになる」と応じました。

大学に求められる新たなリカレント教育の枠組みづくり

 その後、話題が「大人の学び」に移ると、小林氏は「若者の場合は教えてもらうことがメインだが、大人の場合は教え合う、共有しあうことが一つの価値であり、そういったコミュニティづくりをオンラインでできるとよいのでは」と提案しました。

 大島氏は人生100年時代の到来を見据え、「働きながら学んでスキルアップする、あるいは一度働くのを止めて大学に入り直して集中的に学び直すことが必要。そのためには大学と社会の連携がとても重要になる」と見解を述べました。

 二人の意見について林氏が「大学も新たなリカレント教育の枠組みを考えなければいけない」と応じると、小林氏は「今の4年生大学の学部に社会人が入ってもおそらく満足できない。大学は学部の延長ではないかたちの学びを用意し、ワクワクする場を提供して吸引力を発揮してほしい」と要望しました。

さまざまな価値観がぶつかることでイノベーションが起きる

 最後に林氏が「COVID-19が学びを考え直す一つのきっかけになったのでは」と水を向けると、大島氏は今までは偏差値が一つの大きな評価軸とされてきたが、時代の変化に応じて多様な評価軸を持つことができれば大学も社会もさらによくなり、さまざまな価値観がぶつかることでイノベーションが起きやすくなるとの考えを示しました。また、まっすぐなエスカレーターのようなキャリアでなく、例えば新しい農業技術を開発した一次産業従事者が大学で教鞭を執るなど、斜めのキャリアパスを描く人材が増えていけば、「日本から失敗を恐れる不安の雲が少なくなるのでは」と述べました。

 小林氏は「悪い教育をしている大学なんて一つもないが、誰にとっていい大学なのかが分からない。だからこそ大学は個性を磨くことが重要」と力を込めたほか、「守破離」という言葉を使いながら、「高校あるいは大学では、学生が基礎をしっかり学んで離陸するための準備をできるようにしなければならない」と指摘。これに対し、林氏は経験する場をデザインし、学生が考えて将来を選択できるような環境を整えられていないのは大学側の課題でもあるとの認識を示しました。

分科会④の動画を視聴したい方は下記からお進みください。
【動画】COVID19以降に求められる人材育成の変化とは?