学生が自分らしさを見つけるためのサポートこそ大学の役割【分科会②】

 分科会②では(株)雪花代表取締役の上町達也氏と(株)リクルートキャリアHR統括編集長の藤井薫氏をスピーカーとして招き、「これからの企業が求める人材像とは? 〜未来の働き方を創造する 地方×都市圏〜」をテーマに意見交換しました。ファシリテーターは山梨県立大学准教授の杉山歩氏が務めました。

“ソーシャルグッド”を重視する働き手が増加

 分科会②ではまず、リーマンショック前の2000年代前半に就職先の花形だった外資系金融機関・外資系コンサル企業などに就職したような学生は、現在、地方に移住し、新たな価値を創出している人が多いのではという杉山氏の仮説から議論をスタートしました。

 これに対し、藤井氏は確かに世の中全体で新しい働き方や才能にあふれた新しいヒーロー・ヒロインがどんどん生まれているとし、その背景として社会に後戻りできない変化が起きていること、利用者に体験価値を提供するサービス経済化が進んでいることを挙げました。

 杉山氏の立てた仮説を体現している一人と言えるのが上町氏です。上町氏は東京の大手メーカーを退職後、学生時代を過ごした金沢に移住し、アートピースやテーブルウェア、楽器の制作を手掛け、まさにユーザーに上質な体験価値を提供しています。そのきっかけになったのが東日本大震災で、上町氏は「今こそ人の根源となる衣食住の分野でクリエイティブを生かすべきタイミングだと考えた」と振り返り、藤井氏も「 3・11以降、“ソーシャルグッド(社会に対して良いインパクトを与える活動)”を重視した働き方を求める人が増えている」と理解を示しました。

ポイントは自分でハンドルを握って働けるか否か

 また、杉山氏が「地方は保守的で新しい考え方がなかかなじまないのでは」と水を向けると上町氏は自身を成長させてくれた人との出会いを紹介し、「その場でどんな人と何をやるかが大事。土地だけでは新しいことは生まれにくい」と述べました。

 これに対して杉山氏は社会学者リチャード・フロリダの『クリエイティブ都市論』から「3つのT(才能・寛容性・テクノロジー)」を紹介し、これらがそろったことが上町氏の活躍につながっているとの見解を示しました。

 一方、藤井氏は「東京にいても地方にいても、モチベーティング・ポテンシャル・スコアの5つの要素(技能多様性・タスク完結性・タスク重要性・自立性・フォードバック)が満たされているかどうかが働き手にとって重要な問題だ」と指摘。杉山氏は「未来の働き方という意味では、いかに自分でハンドルを握って働けるのかが大切なポイントになる」と応じました。

共創は日本人の得意技。国内外を問わず連携促進を

 続いて杉山氏がテーマにしたのが地域資源の共創でした。以前のように東京から地方の地域資源を発掘するような手法ではなく、これからは地域資源を組み合わせて新しいものを共創することが必要なのではと提起すると、上町氏は「それしかないし、土着的な文化には地域で生きてきた人の精神性がにじんでいて、そこに面白みがある」と賛同しました。

 藤井氏もイタリアのパスタと日本のたらこを組み合わせて、たらこスパゲッティを生み出したように日本は混ぜたり、編集したりするのが上手な国であり、そこに力を入れるべきと強調しました。また、共創する際には例えば3カ月限定でプロジェクトを組むなど、時間や目的を細分化するのも一つの有効な手段ではないかと提言。上町氏もこれに賛意を示した上で、居住地は一つのアイデンティティーに過ぎず、目的や価値観を共有できれば国内外を問わず、必要と思える人と連携すべきと述べました。

企業はパーパスを解像度高く伝えることが重要

 最後は学生の地元定着率を上げるために、企業はどのように変わらなければならいのかをテーマに意見を交わしました。

 これについて藤井氏は学生は何のためにこの会社で働くのかという視点を重視しているとした上で、「企業は学生に対し、何にために存在しているかというパーパスを、解像度を高く、まるで絵はがきのように伝えることが重要だ」と力を込めたほか、個々が意思決定できる「ティール組織」のように組織を改革する必要性にも言及しました。

 上町氏は「自分らしい生き方のビジョンを見いだすようサポートするのが大学の役割である」と述べました。さらに「人も企業も自分らしく事業を行っているかが一番で、そういう人や企業が増えれば、日本は元気になるし、面白くなる」と続けました。

 これを受け、藤井氏は働く喜びを実感している人は4割に過ぎないという調査結果を紹介し、「自分の持ち味を生かすことができていると感じている人ほど、働く喜びを感じている。大学でも自分の強みを見つけるためのサポートをした方がいい」と提言。その一環として上町氏は、学生に働く意欲を醸成するには「周りの大人たちが生き生きと働く姿を見せることも大切」との考えを示しました。

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【動画】これからの企業が求める人材像とは?