企業と学生の「共創の学び」を自走化させる組織の在り方

2023.03.28

令和4年度COC+R全国シンポジウムでは、2つのテーマによるパネルディスカッションが開催されました。その2では、『企業と学生の「共創の学び」を自走化させる組織の在り方』をテーマに、文部科学省の神山弘課長にも登壇いただき、COC+R事業選定大学である山梨県立大学の杉山歩准教授、信州大学キャリア教育サポートセンターの勝亦達夫氏から、この先の自走化の構想、方向性について共有があり、自走化に関する様々な観点を抽出しながら議論が展開されました。
(ファシリテーター:信州大学 山本美樹夫特任教授)

3大学連携のENGINE教育プログラム──信州大学

信州大学 勝亦達夫氏

 まず、それぞれの大学が取り組んでいるプロジェクトについての発表が行われました。はじめに、信州大学の勝亦達夫氏から「ENGINE教育プログラム」のことについての説明がありました。これは、信州大学・富山大学・金沢大学の3学が県境をまたいで連携して行っているものです。3年間前からスタートし、リテラシー強化フェーズ、キャリア形成フェーズ、実践力強化フェーズという3つのフェーズを経てきました。このステップを各大学で共有し、科目を作り、受講生を募って実践的な力を養っています。

 イベントとして、県内外の企業を知ってキャリア形成を図る「大しごとーく」を中核に据えていて、3大学が相乗りするという規模の大きなものです。先に挙げた3つのフェーズに合わせて毎年開催され、運営は学生によるもの。企業から出展料を取る形で実行していることで、自走化実現のひとつの要因となります。そしてこういった場を継続し、おカネを回しながらENGINEインターンシップやリカレント、リスキリングの機会も増やしていきたい。さらに今後は、企業側からも必要な人材やスキルを共有してもらえるような流れを作り、大学、学生と一緒に実行できる体制が必要になると勝亦氏。

 このように、短期的な自走化から長期的な「連繋」とするため、その課題としてプログラム維持のための人件費を稼ぐ仕組み、人材育成環境を作るための仕組み、大学の中だけにとらわれない組織作りを挙げました。システムとしての自走化が目指すところであると。さらに、大学は研究や技術開発が得意であるけれど、大しごとーくのような機会を社会や企業に提供し、その先の人材育成をサービスにまで仕立て上げて展開したいと語りました。

Pentas Yamanashiの自走化に向けた取組──山梨県立大学

山梨県立大学 杉山歩准教授

 山梨県立大学の杉山歩准教授は、「Pentas Yamanashi」のプロジェクトを解説。自走化に向けた3つの取組を紹介しました。

 1つ目は、COC+Rが始まった令和3年度の教養教育課程の「実践科目、技能科目、VUCA科目」の位置付けを、令和4年度は自由科目から教養科目と基礎科目へ移動したこと。さらに令和6年度以降は教養教育改革と連携して、新たな教養教育課程の構築を進めていき、より自走化の可能性を高めるという取組を紹介しました。

 2つ目は、寄付口座の拡充。令和4年度は1科目をやまなし観光推進機構の経費で実施しました。令和5年度はそれを2科目に増やす予定です。そして銀行と食品会社による寄付口座として2科目を新規開講する計画を持っています。

 3つ目は、外部からの受講料徴収。やまなし観光推進機構の講座は会員企業の方は無料で受講が可能です。それ以外に社会人や高校生にもこのプログラムを開放していて、その受講料による事業収入がありました。これを増やしていき、特に高校生は高大接続改革とも相まってさらに拡大を見込んでいます。

 この後は、数字の話だけではなく本質的な話がしたいと続け、杉山准教授の発表は終わりました。

自走のためにCOC+Rが目指すもの──文部科学省

文部科学省総合教育政策局 神山弘課長

 その次には、文部科学省総合教育政策局の神山弘課長が、COC+Rが目指すものは最終的に地域が求める人材の養成と輩出ということ、自走化とは予算措置が終了しても継続的に取り組まれることであると前置きしました。5年間という中で大学が仕組みを作る。学内以外にも、学外との連携・協力の体制を作って維持していく。人材を輩出し、実績を作り、予算を獲得するためには関係者の理解が必要で、成果の可視化をしながら地元のニーズにどれだけ応えているかを示さなければならないと続けます。そのためには修了生や関係企業からよかった点やプログラムの改善点を集約してPDCAを回していくことが大事です。

 自走化の具体的な方策としては、やはり予算や財源の確保が重要。学内で確保する以外に、大しごとーくの出展料やPentas Yamanashiの受講料のような事業収入、地元企業からの援助や自治体の補助金などを活用する道があります。

 主体としては、もちろん大学がコアになり、中小企業に対しての人材提供や助言を通じて大学での教育の価値を理解してもらうこと。今重要性が認識されているリカレント、リスキリングへの取組は大学が柱にならねばなりません。こうやって、地域の課題解決や共同研究が自走化への基盤になるのではないかと語りました。

見えてきた課題、新たな知見とは? ──ディスカッションまとめ

 パネリスト3氏による発表の後、内容を受けてそれぞれの立場からより深いディスカッションが行われました。そのエッセンスをパネリスト別にご紹介します。

勝亦達夫氏

 自走化に際し、一つひとつの維持は簡単だが、進めていくための人が大切。企業も大学も、人がいないと回っていかない。プログラムが大きくなるにつれ、面白いね、と人的支援や物的支援、フィールド的支援が集まり回っていくようにしたい。そのことで自然と循環し自走化していくのが理想。

 見える化すると言うとKPI(重要業績評価指数)の議論になる。でもその前にKGI(重要目標達成指数)だろうと思う。KPI、つまり受講者数などにとらわれると、1人や2人でも社会を変えられる人が出てくることを忘れてしまう。何のためにやるかということを、企業にも学生にもちゃんと説明して理解を得ることが大切。相手のメリットになれば信頼も生まれ、最終的にソーシャルキャピタルにまでなる。

 大学だけではできないことは、県や国と一緒にやればできるというところまで繋げていきたい。今回の共創の学びは、ちゃんと種を作ってまた育てるように、循環をもっと意識しなければ。事業をどう回わし、人も回すか、自分もいろいろなところに出ていって情報収集をしていきたい。


杉山歩准教授

 企業と学生の長期インターンシップとしてプロジェクト型の経験学習を甲府市内4大学で33プロジェクトを立ち上げている。地域活性化するための人材育成をしたり、その人材を供給したりして、持続化を図っていく。その熱量を保ちながらソーシャルキャピタルとして地域に根づかせないと、継続できないのでは。

 共創は、「コ・クリエイト」。地域の大学と企業、自治体がそうやって共創する場と考えれば、人材育成にコストをかけず競争力を高められる。

 COC+のとき援助していた学生が社会人になっても受講に来てくれる。そういったOBやOGが出てくることもソーシャルキャピタルだ。また大学へ学びに行きたいと思う場になるには、10年ぐらいかけて取り組んでいかなければならない。


神山弘氏

 OBやOGの活用ということでは、寄付などの援助以外、ぜひ学び直しに来てほしい。そして、課題意識を持ってよかったところやそうでないところ、これから学びたいことなどの意見や情報ももらえるといい。後輩に参加意識を持たせてあげながら、異業種間でのコミュニケーションもできるだろう。

 大学の取組が地域の理解を得ていけば、おカネも含めて連携をしていくこともあるかと思う。それから自走化が実現する。文科省の方でも、その後押しをきちんとしていきたい。


山本美樹夫特任教授

 企業と連繋し共創して、長期的にビジョンやゴールを見据えていきたい。ソーシャルキャピタルになっていけば、おカネだけじゃなく人の意思などが活力を生むだろう。これは地域の中で新しい形の商工会になる。その組織作りが大切で、補助事業でできたものを維持するという意識は捨てた方がいい。

 例えば「大しごとーく」の出展料は、投資と捉えるべき。PL(損益計算書)ではなくBS(貸借対照表)という方が合っている。優秀な人材を採るための投資だ。

 目指すビジョンの中から出たOBやOGの活用は、今日のお話の中で具体的に見えてきた方向性だ。大学にお世話になった人は何万人もいる。学び直しの他に、寄付をしてみようと思う人も多いだろう。OB会OG会の作り方にも工夫が必要で、ネットワークの強さを活用するなどがよいのでは。

 これからの大学の役割を考える上で、今日出たように大学内外の組織体でソーシャルキャピタルを形成していくモデルを持つことが理想。自走化に向けた仲間としての企業という話もできたと思う。

 1時間の中に様々な事例と意見を込め、パネルディスカッション2は終了しました。

※シンポジウムの動画は、COC+R会員の皆様に公開しております。

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