これからの地域に必要な「企業の学び」
2023.03.28
令和4年度COC+R全国シンポジウムの講演は3氏によるものでした。その1として、「企業の学び」の観点から(株)ブレインパッドの代表取締役社長の高橋隆史氏が登壇。企業が変わるための新しい学び、その実現が日本の巻き返しにつながるという内容でした。
変化がないと企業の成長はない
「企業の学び」についてお話ししますが、そもそも人間はなぜ学ばなければならないかから解いていきましょう。個人的には好奇心を満たすためですが、企業の場合は行動を変えるため、さらに言うと、やっていることの内容・スピード・効率を変えるためです。なぜ変えなければいけないか、安定しているなら変えなくてもいいのではとも言われますが、この30年間日本は成長していない、GDPは周辺の国にも抜かれています。そしてそれは生活のダメージにもつながります。
人口が減り市場も縮小する中、企業にも変化への対応力が求められます。例えばトヨタとテスラの比較。トヨタはテスラの何倍も車を作っていますが、時価総額だとテスラはトヨタの3倍になったことがあります。これは、テスラが変化を生み出す企業だから。テスラのイーロン・マスク氏がCEOを務めるSpaceX社は2022年だけで61回ロケットを打ち上げ、全て成功させている。対して、日本のJAXAは20年間で54回。SpaceX社は通信サービスの改革のためにこのスピード感でロケットを打ち上げているのです。
変化しないと成長しない。そして変化するために学ぶことが必要となるわけです。
AI実用化──知ったら機会、知らないと脅威のまま
生成系AIという、画像や文章を作るAIがあります。この世に存在しない顔の画像を生成するサービスもできました。最近話題になったChatGPTは文章生成系のAIで、間違いもありますが、相当納得度の高いものを膨大な学習データで提供してくれます。学生の宿題や論文をこれで作ってしまうことの問題も論じられていますが、教育の現場もものすごい勢いで変化しています。AIが高い生産性を持って問題解決をするようになるのは、時間の問題です。以前はロボットがブルーカラーの仕事を奪うと言われていましたが、ホワイトカラーの単純な仕事をAIが奪う可能性の方が高まっています。
こういうことを知っていて活用するのと、気付かないままでいることとでは、大きな違いがあります。さっきのロケットのように、通信サービスの仕事を奪いかねないプレイヤーは日本の外にたくさんいることを知らなければいけません。逆に、こういうAIを使ったら何が出来るんだろうと、ワクワクするところもあります。知らないと脅威ですが、知ったらチャンスになる。そんな機会を作っていけたらいいなと思います。
「失われた30年」ではなく「失った30年」と気付くべき
日本はどう変わらなければならないかを考えるために、国際的に比較した日本の評価を見てみましょう。IMDが調査した日本の競争力は、かつて1位だったのが今では34位。ビジネスの効率性では、調査対象63国中の最下位です。
また、経済産業省の「未来人材ビジョン」では、求められる人材の能力は2050年になると今とは全く異なり、「問題発見力」「的確な予測」「革新性」などが上位に来ると予想しています。企業と従業員のエンゲージメント(同じ方向を向いている割合)、現在の勤務先で働き続けたい、転職に対する意欲の割合は、アジアの14国中いずれも最下位。この会社にいたくはないけれど他へ行きたいわけでもないという、無気力を感じます。人材投資の国際比較でも留学の意向でも絶望的な結果です。
なぜこうなったか? 最大の問題は、これらを認識していたのに解決や努力の方向が間違っていたということです。一生懸命努力しているのに何も変わらない、むしろ悪くなっているのが一番の問題です。現場ではなくリーダーが間違っていたこと、80年代までの日本の成長はたまたまいろいろな要因が重なった偶発的なものであることに、気付くべきです。
日米で違う、IT投資の考え方
データの性質は、ITのシステムがどこに使われているかによって変わります。アメリカはITによるサービスの開発強化など、攻めの活用です。対して日本では、コスト削減を目的にしているケースが多い。守りのIT投資で、あくまでもサポート役です。IT技術者はアメリカは65%以上が社員で、日本では70%以上が外注という調査もあります*。
インターネットの本格普及が始まった1995年、ビジネスモデルを変えられるチャンスが世界平等に生まれました。そこで飛び付いた会社と、そうでない会社があった。例えば、使いやすいソフトに改良してお客さんを集められたかどうかで差が付きました。ICTへの投資額をGDPの割合で比べると、日米ではほぼ同じです。しかし、それが産業を伸ばしているかというと、日本は大きく水をあけられています。ITをどう武器として使うかは、やはり経営判断となります。ツールがよくてもエンジニアが優秀でも、経営者の意識が変わらなければ何も変わりません。
ちなみに私が代表を務めるブレインパッドは、ネットでのビジネスチャンスに可能性を感じて2004年に設立したのですが、データで仕事なんかできないという声の中、データが新しい時代を創り付加価値を生み出せることを証明したと思っています。
*独立行政法人 情報処理推進機構「IT人材白書2017」より
地域産業において「学び」が最も必要なのは、経営者
こういう状況でみんな勉強しなければいけないことはわかっています。そしていちばん勉強が必要なのは経営者のあなたですと、私は声高に言っています。勉強していない経営者の企業には、若い人は集まりません。そういった危機感を感じ、率先して勉強を始めるべきです。
今はリモートワークで地元にいながらいろいろな仕事ができます。これは、地元の人材を取られてしまうことにつながります。新卒の初任給も上がってきていて、我々経営者も戦々恐々としています。稼ぐ能力が低かったら、地域の優秀な人を東京の企業にピンポイントで持って行かれる。そういうことが既に始まっています。
なので、逆にいろいろな仕事やチャンスを取りに行くこともできるということです。生産性を高めれば、地元で働きたい人にその場を作ってあげられます。以前あった東証二部のような規模が小さめで、成長を続けている会社は、特にチャンスです。方向転換しやすいし変わりやすい。東京を経由せずにグローバルに仕事を取りに行ける時代ですから、チャンスは広がっています。内にこもっているのはもったいない。ぜひ勉強して、チャンスを掴みに行きましょう。
※シンポジウムの動画は、COC+R会員の皆様に公開しております。
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