パネルディスカッション② 地元就職に向け「地方大学」だからできる「学びの連携」とは – COC+R 令和5年度全国シンポジウム
2024.03.22
大学を中心とした立体的な広がりが、イノベーションを生み、地域の社会資本形成に繋がる
パネルディスカッション②のテーマは、「学びの連繋」についてです。地元の小中学校から大学までの縦の繫がり、そして大学から他地方や官民への横の繫がりについて、パネリストが持論を展開しました。さらに、地方大学ならではの状況や成長速度との関係などにも触れ、「境界を越える」というメインテーマとどう繋がってくるかを語りました。
<パネラー>
山田真治氏 チャレンジフィールド北海道 統括エリアコーディネーター
樫原洋平氏 リンクアンドモチベーション エグゼクティブディレクター
小山茂喜氏 信州大学教授
杉山歩氏 山梨県立大学教授
<ファシリテーター>
信州大学 山本美樹夫特任教授
最後の要素「b(社会資本)」が重要な存在
山本 ずっと「Y=xa+b」という因果モデルを見てきましたが、今まで「b」をあまり議論してきませんでした。bは地元高校からの進学者率などによる、一定の地元就職数です。親と住んでいるから、親の会社があるからなど、色々な意味で「下駄」を履いているところがあります。パネルディスカッション②では、地方大学がb切片を高めるために何ができるかを議論し、有望な方向性を見出すことが目的です。高大接続を考えた時、地域内の小中高と繋がる強力な「縦」の連鎖になります。もともと長野県に住む学生がどんどん信州大学に来てくれれば、結果的にb切片は上がるでしょう。一方、長野県以外の出身者が信州大学に入り、そのまま就職した場合は、高大接続ではなく「横」の連繋です。先ほどシンポジウム①でも学生がコメントしましたが、大学や自治体、地元企業や関係機関が横に手を伸ばして繋がることで、地域の魅力を高められるのではないでしょうか。
日本でアメリカのシリコンバレーのような町をどうつくるか、話をすることがあります。小さな町に、磁石のように人やおカネ、知恵や企業がどんどん集まってくる地域です。人工的にそんな地域ができないか。ITでなくても、食、ファッション、あるいは造船や森林の町、いろいろあると思います。シリコンバレーはそういった横連繋です。
パネラーの皆さんがなさっているプロジェクトの「縦」「横」をまず聞かせてください。
山田 私は北海道で人材育成活動の一つとして、農業高校や商業高校など専門高同士を繋いだ共創プロジェクトを行っています。地元の学びを連繋してモチベーションを上げて、産業人材の育成をしていく地域創生の試みです。並行して、地域とアカデミックを繋ぐために地域へ出て行ってソーシャル活動を活性化する人材育成プログラムも行っています。こちらは地域の魅力的な社会資本づくりという「横」に当たります。
樫原 人材を探すとき、効率や費用対効果ばかり考えるのではなく、産学官の連繋で次世代人材を創っていくプロジェクトを行っています。「青田買い」より「青田創り」です。経団連の地域共創アクションプログラムでは、ENGINEプログラムを応用して地元大学と地元企業の連繋を横展開で行っています。
小山 小学生のところに大学生が出掛けていって、信州大学のお兄さんお姉さんはすごいな、自分も入りたいなという意識付けをしようとしています。我々の戦略は小学生から。高大連繋で高校生に知ってもらい来てくれればと思っても、それはもう遅いんです。並行して、高校で単位の先取り履修を始め、次第に履修者が増えてきました。女子中高生の理系進路選択支援プログラムとして理系の女子学生が学校へ出向いてワークショップや進路相談を行っています。
杉山 今山梨県で、4つの大学と1つの短大で150名の学生が35個のプロジェクトをやっています。こういったものを社会資本にしていくには、一つひとつの事業がバラバラに切れないようにすることが必要です。今年度は小中高から大学生まで同じ場所でプレゼンテーションするような交流の機会をつくりたいです。こうして地域に場をつくっていくのが大切だと思っています。
「組織、人、情報」の3つが繋がり、「人」を前に出す
山本 基調講演で水谷さんが「憧れの連鎖」と言いましたが、これは縦の連繋をつくるときの重要な因子だと思います。高大接続でベストプラクティスはどんなものがあって、でもこんな課題もある。そこに大学はどういう役割を担うのでしょうか。
小山 縦の連繋を考えたとき、例えば教職課程を取っている学生なら教育実習は母校ですが、県外の学生も近隣の学校で行います。自分の学部のある地域の学校と触れ合うことで、地域の魅力を知り、長野県で就職したいと思うようになる。こうやって大学が魅力を伝える支援をすることで縦の繫がりが育ってきます。農学部は県外出身者が多いのですが、卒業後長野県に就職する学生も増えてきました。先日も大阪出身の学生が長野で教員になりたいと言ってきた例もあります。高大接続で言うと、高校生に心理的な近さを感じてもらえるよう、我々教員が生徒一人ひとりと、大学生や地域の方々にも入ってもらいながら対話をしています。大学生にとっては、人とのコミュニケーション力を高められる側面もあります。
樫原 高校から大学への進学は、学問をするためという意識が強いですよね。でもその先、就職への憧れもないと学びのモチベーションに繋がっていきません。それから、大学生が実際に高校に行って刺激を与えることがエネルギーになると、高校の先生に言われました。非日常感をリアルに感じさせて欲しいということです。夕方の時間を使い、大学生がコーディネートして企業でインターンシップをしてみるのもいいかなと思います。
山田 私は横の連繋の方が多いのですが、「組織、人、情報」の3つが繋がってくると縦連繋の強さが発揮されます。大学は圧倒的なリソースを持っていますから、学生をどう出すかが雰囲気を決めると思います。彼らが前面に出ていけば、お兄さんやお姉さんが出てきた、とキラキラしてくれます。さっきの心理的近さを感じてもらえます。そういうことを意識してどんどん地域のトップとして関わっていくのがいいでしょう。
杉山 横の繫がりは、地域連携プラットフォームの中で大学と地域企業や団体とどう繋がっていくかが重要です。社会人のリスキリングや、学生の不安を解決してあげるのも大学の役割です。地域で働くことを考えたとき、すぐ相談でき学び直せる関係を、複数の大学が横繫がりでつくらなければなりません。そして私は縦と横の他に、斜めという繫がりもあると思います。高校の支援をしている人たちと、地域を越えて斜めに接続するわけです。水谷さんの団体からも先日オファーがありました。大学は単に地元の高校とパイプを太くするだけではなく、支援している団体と組むことで、結果的に地元就職率は高くなると思います。COC+Rで山梨県立大学がPENTASというプロジェクトをやっていますが、入学者のうち高校時代に受講経験のある学生は8.5%になりました。入学してからの成長も早いです。このように本人たちのやる気が伸びる接続を考えなければいけないと思います。
地域でとことん突き詰めて活動したら、世界レベルになれる
山本 大学で「専門家」になるためには、その人がやりたいことを探し出して見つけられるプログラムがないと意味がないのではと思います。Y切片も含めて、そういった取り組みは大学の中で広まってきているでしょうか。
小山 自分たちが社会を作り上げていく意識を、大学生もまだ持てていません。主権者教育と言われますが、地域との繋がりの中で社会をつくり、地域社会に支えられている意識が必要です。大学生が一歩外へ出て社会や企業と繋がる時、自分のライフプランとどんな関連性でやっていけるか。我々教員はそれを俯瞰的に意識しながら導くことが重要なんじゃないかと思います。ただ、ガイダンスではストーリーをつくることなく、受け入れてもらう側に来ていただいてアバウトに話して、後は学生が行っていろいろ関わりながら詰めていっています。
山田 北海道でいろいろなプロジェクトをやって思ったのは、産学はじめすべてがイコールパートナーである意識を持つべきということです。例えば、北海道教育大学函館校と東京農業大学網走校が、とても実践的な地域密着の教育を行い、二刀流三刀流を使いこなすジェネラリストを育てています。専門に特化した人材でも成り立っていける都会と違い、地域においてジェネラリストは非常に貴重な人材となります。
樫原 大学生や高校生たちは、我々大人の映し鏡だと思います。どういう連繋をするか、そのレベルを若い人たちに示していきたい。連繋のセクターを考えて、繋がって何かをやっている背中を見せるのはとてもいいことだと思います。そして大学がリアリティをどれだけ与えられるか。キャリアプログラムをオンラインでやろうとしたら全員に反対されました。リアルを見せて憧れを醸成することが大切です。
杉山 よく言われる「グローカル」という言葉は、「Think global, act local.」というフレーズから来ていますが、これは都市部が仕掛けた罠じゃないかと。東京の事を考えて地域で活動せよと言われて面白がる学生はいません。でも「Think local, act global.」なら分かります。地域でとことん突き詰めて活動したら、世界レベルになれるんです。
大学はオープンの象徴としてあり続けてるべき
樫原 首都圏の大学と関西の行政と繋げて、地域外からのUIターンを増やしたいという話がありました。観光の魅力を伝える新しい行動プランをつくることになりましたが、行政は「どんな企業がいいでしょうか」とはじめに言う。地域の企業名は、学生は知りませんから、まずその魅力を自覚しなければなりません。地域が人づくりへの関心を持っていて、人と人のネットワークがなければどんなプログラムでも魂が入りません。大学が地域の魅力を考えるワークショップを起こしてあげれば民間のプラットフォームになります。そういった場所としての大学も、すごく意味があるのではと最近思っています。
山田 魅力というのは、見つけてもらえばいいと思います。水谷さんもおっしゃるように、大学は絶対閉じちゃ駄目です。オープンの象徴としてあり続けてほしい。地域の内外からどんどん入ってきて、例え出ていってもまた帰ってきてくればいいのです。大学は流動性の象徴としても機能していかなければと思います。
樫原 自分の魅力は誰かを鏡にしないと認識できないかもしれないと思います。学生を10人、ある地域に1週間行ってもらって魅力を発見して伝えるプロジェクトをやりました。そこの魅力を照らす鏡になれば、言語化のお手伝いをしたり、魅力を発見したりの可能性はすごくあると感じました。
小山 大学生が中学生と連動して地域課題を提案したことがありました。通常、町の議会は提案されても「参考にします」で終わりですが、あるところでは首長が「君たちの考えは間違っているし計算も違う」と反応しました。学生たちは「え?」となって修正を重ね、町の予算に反映できるプランになりました。大学生と中学生が考えた案に予算が付くとは思わず、町が変わったとみんな驚きました。こういったことで地域と繋がる実感が湧いてきます。
杉山 皆さんの話で、今まで自分が言ってきた「人間中心」は「システム中心」だったことに気付きました。教育は本来システム中心だったので、就職についてもシステム中心に考えてしまいます。就職は一つの機会で、大切なのは人間中心で考え、自分が一番パフォーマンスを発揮できるのはどこかを見つけることです。社会資本の中に自分を置けばパフォーマンスが一番発揮でき、自分も気持ちいい場になる。そうすると必然的に人間中心で考えるし、どこで働けばいいのかも分かります。Y切片が高くなってくるのは必然だと思います。
山本 地域企業に入れば複数の仕事が降ってくるかもしれません。はじめはうまくやれなくてたくさん失敗して怒られた方が、成長速度は圧倒的に早いんです。水谷さんがおっしゃった地域みらい留学の100校以上の高校も繋がっています。そこと大学が連繋することで何かとても面白いことができそうです。憧れの先輩がいる大学というのを見せられるだけでもいいと思います。ある意味組織の時代はもう終わるかもしれません。集団で起こすイノベーションに、我々もどう相乗りさせてもらうか。さまざまなケースを作りながら、憧れやこれからの社会像、本当の意味での人の繋がりという社会資本がつくられていくために、COC+Rのプログラムを考えていきたいと思います。
コメンテーターから
大学は「人」の挑戦を後押しできているか
文部科学省 総合教育政策局 生涯学習推進課長 石橋晶氏
聞いていて、いいキーワードがいくつも出てきました。4大学の取り組みをはじめ、大学が挑戦を後押しできているかが大事だと思います。「組織から人へ」のメッセージに脱却していくことは、人を中心として社会がもう一度再構築されることです。挑戦も後押しできるし、失敗を恐れないようにもなります。先生方から名刺が2枚3枚出てくるのを学生が見て、自分にも可能性があると思い挑戦すれば良いと思います。そうすれば、新しい日本の10年、20年をつくることができるでしょう。
地域の若者を主体者として扱う勇気が必要
地域・教育魅力化プラットフォーム 理事・会長 水谷智之氏
連繋のレベルをどう定義するかで、今までの流れを変えられると思いました。憧れの連鎖が起きた時に行動は変わり、地域の経営資源になる関係人口もそこから価値を持ちます。縦だけの繫がりではなく地域まるごと学びの場として考えているので、高校生は地域をつくっている当事者です。主体者として扱う勇気が必要です。生徒を連れてシンガポールやブータンに行き、英語でセッションをしています。都会の高校ではできないことで、開かれた連繋を明示的にやっていくのは素敵なことですね。