地域社会が活性し持続化する「島根県海士町の教育魅力化」アプローチと地方大学への期待 COC+R令和5年度全国シンポジウム基調講演

2024.03.22

基調講演に立ったのは、一般財団法人 地域・教育魅力化プラットフォームの会長・理事である水谷智之氏。人口2,300人の島根県海士(あま)町の高校へ「地域みらい留学」を進め、意思を持った若者たちを島まるごとで育てる試みを行っています。その結果、今では日本で一番倍率の高い公立高校になったということで注目されました。それを発展させた「大人の島留学」、高大連携の在り方にまで触れ、大学入学の「その先」への広がりに続く展望を語りました。

「ないものはない」がスローガンの島

島根県の隠岐の島に海士町という町があります。人口は2,300人、本土から約60km離れ、フェリーに乗って約2〜3時間かかります。空港もコンビニもなく、島内には信号機が1基だけあります。こんな島のスローガンは「ないものはない!」です。これは逆説的に「本当に大切なもので、足りないものは何もない」という意味を込めています。

この町に隠岐島前(どうぜん)高校という、廃校寸前まで生徒数が減った県立高校があります。存続問題のさなか、2008(平成20)年に教育魅力化プロジェクトを開始し、島前高校を再建する試みを始めました。地域外から高校生を招き入れ、普通科の代わりに「地域共創科」をつくり、地域共同体の一員として「探究学習」を始めたのです。木曜日は授業がなく1日外へ出て自分で選んだインターンシップの場所で仕事をします。大人が教えるのではなく、自分で見つけるものを探究することで、島がまるごと学校に、住民が先生のようになりました。

今では6割が都会や海外から集まった生徒です。募集倍率は2.7倍となり、日本の公立高校で一番高くなりました。生徒数は、2017(平成29)年には最少だった魅力化開始年(2008年)に比べ2倍以上に。高校以外でも外の若者に選ばれる島となり、人口の約20%が移住者で、全国から40代以下の人々が次々と転入してきています。

 

地域留学で倍率日本一の県立高校へ

高校魅力化プロジェクトをモデルとして、「地域みらい留学」が始まりました。全国地域で、地域外からの入学を受け入れる仕組みです。自治体と各高校の校長が手を携えて実現しました。2023(令和5)年度は33の道府県で111校が参画、年間5,000人が説明会に参加し、年間の卒業生は800人に及びます。数年後には200校くらいになると思います。

卒業生の例を挙げると、Mさんは神奈川県から隠岐島前高校へ入学して寮長を務め、慶應義塾大学へ進学。そして休学して起業を果たしています。Sさんは東京から島根県立津和野高校へ入学して東京大学に進学。竹林の保全活動や竹林文化を創るプロジェクトを立ち上げ、海外へも活躍の場を広げています。また、千葉県から隠岐島前高校へ入学し、休学して教育施設を探求するため単身で海外留学に出た生徒もいます。

小学校時代は面白かったのに中学に入ると勉強しろと言われ、やることを全部学校に決められてくる。その延長線上で偏差値で輪切りにされた高校に行くのは嫌だ、もっとやりたいことに挑戦したいという若者たちが地域みらい留学を経て、飛び出して行っています。

 

「いつまでおるんだ?」は禁句

こういった、選んでもらえる地域・高校にすることが大事と大人たちも気付きました。海士町の場合、3年で帰ってしまう若者のためになぜ町が投資をしなければならないのかという議論もありました。今では地域留学生への反対はもちろん1人もいません。留学生がいろいろ挑戦する姿や、卒業するとき涙を流して帰っていくのを見て、若者が地域を愛するエネルギーが価値だと気付いたからです。

3年前から、大学生や若者を対象とした3カ月から1年にわたるお試し就労移住「大人の島留学」を始めました。年間100名を超える人たちが常時留学・就業中です。100人の留学生のために住居を整備したり、電動アシスト自転車を100台用意したり、住民が受け入れ体制を整えたりしなければならず、コストはかかります。でもそれが当たり前だというふうに、この18年で意識が変わってきました。

以前は永住者しか認めない風潮がありました。島に来た若者が「いつまでおるんだ?」と声を掛けられると、例え悪気がなくても「いつ出て行くんだ」と捉えてしまう。長くいる奴の方が偉いと。だからこの言葉を大人は使ってはいけないとしました。

海士町では人口減少に歯止めが掛かり、少しずつですが予想よりも増加しています。

仕事を自分でデザインする

3年前、日本で最初の「複業協同組合」をこの島に作りました。例えば春は漁業、夏は観光、秋は教育、冬は医療と、季節によって仕事を選ぶことができます。また、週3日はIT、週1日はワイン造り、もう1日は福祉といった具合にいつでも複数の仕事を持てる仕組みです。自分で仕事をデザインできるわけです。これは都会ではできません。若者に選んでもらう島の経営資源です。今こういう協同組合は全国で60くらいあるそうです。複業ができないと言われていた公務員も、海士町では条例を作って挑戦しています。

高校生と大人を合わせて200人が現在島にいるわけですが、滞在人口300人を目指します。10%が移住するとすれば30人、10年で300人が自分の意思で海士町に住むことになります。人材としての持続可能性が成り立ちます。

実は滞在人口以外の人たちが、「関係人口経営」として地域を作っていく上での最大の経営資源です。町の外にいても「海士町民ですよ」とスマートフォンで表示できる電子名刺も配布しています。

高校生に大学のワクワクする魅力を伝える

意思ある若者が地域に集まる3つの要素は、自分で決めて自分で踏み込む機会がある「自分起点」、称賛や悔しさなどを味わえる「手ざわり感」、うまくいかなくても挑戦したことを褒める「失敗と場数」です。「失敗を共に讃え合う」というスローガンを島前高校では作りました。

高校生にとって一番頼りになる存在は大学生だと思っています。どんなワクワク感があるかを、大学生が高校生に伝える。そこでしか学べない学びが大学の魅力です。入学する前にそれを伝えることが高大連携の在り方です。大学が探究や伴走の場面になっていけば、少子化の時代に連携して、先輩の背中を見ながら縦の繫がりを作っていくことができます。

また、横の繫がりへの期待も与えられます。入学は入口で、そこで学んだ高校生が都会の大学へ行き、その先の広がり感が最大の要素です。大学に入れば世界へ繋がることがその大学の価値になるということを、次の5年のテーマにしようと思っています。