COC+R令和5年度全国シンポジウム 事業報告

地域就職数の上昇は、多様な働き方と地方生活の豊かさ訴求がカギとなる

信州大学キャリア教育・サポートセンター 西尾尚子助教

2つのパネルディスカッションに続き、COC+Rの事業報告が行われました。地域就職に向けた「因果モデル構築」について、信州大学の西尾尚子助教が学生アンケートの実施結果を元に発表しました。学生の地域就職に対する意識、就職志向、自己成長やワークライフバランスに対する考えなどを質問し、その答えから有意な相関関係にある因子を特定。そして、ENGINEプログラムの初期評価とこれからに向けて大学ができることを提言して締めくくりました。

「y=地域就職数」上昇のためのアンケート

これまでも「y=ax+b」の因果モデルで地域就職数を上げるための背景を探ってきましたが、今回はaxという「大学プログラムの効果によるもの」にフォーカスしたアンケートを行いました。これまでの取り組みとして、axの中身をひもとくために、「企業因子・大学因子・学生因子」の3つの因子を仮説として設定し、それぞれの因子を大分類、中分類に分けながら、導き出した要件を考慮し信州大学で実施中であるENGINEプログラムを開発してきました。そして今年度はそれに加え、新しい試みとして信州大学全学生に対して学生アンケートを実施しました。地域就職への意識調査をすることによって学生の意識を把握し、その上で、ENGINEプログラムの効果測定、仮説として置いた3つの因子が正しいかどうかを確かめる目的もありました。

アンケートの質問項目としては、デモグラフィックなことをはじめ、就職志向や地域企業に関係する授業やイベント、インターンシップなど、地域企業そのものに対する認知や魅力など、地域生活などについてです。

学生は地元企業のことをほとんど知らない

アンケート結果を集計してみると、就職は自分の出身地でという回答が約7割いました。そして、大企業や公務員志向の人は約5割。コメントを読んでも安定性を求めている傾向が見て取れます。

地域企業についてどれだけ知っているかの質問について、1社から5社しか知らない人が約7割にのぼりました。さらに業務内容については、1社から5社しか知らない人が約8割です。これにはとても驚きました。学生がいかに地域企業のことを知らないかを改めて認識しました。

ワークライフバランスについては、地方で暮らした方が経済的安定にも生活の豊かさにも良いという考えが約6割以上となっています。人と人との繫がりやネットワークが重要と考えている人は約8割を超えていました。

 

抽出された6つの因子から認知機会を特定

これらの結果を踏まえ、ENGINEプログラムの初期評価をしてみます。因子分析の結果、図版にあるように「企業(機会)」「就職タイミング」「中小・ベンチャー志向」「企業(認知)」「大企業・都会志向」「学生(自己成長)」という6つの因子を抽出しました。この中で、「企業(機会)」「企業(認知)」に有意な相関が見られました。ENGINEプログラムによって地域企業を知る機会を提供すれば、その認知度は向上することが示唆されます。

また、地域企業が参加するイベントへの参加が増えると、企業の魅力は増加する傾向が見られました。そして、企業の魅力として「企業パーパス(価値)」「イノベーションストーリー(革新)」「SDGsなどの地域貢献(地域)」を重視する企業が魅力を醸成していくという回答が約45%です。社会性に基づいていることに魅力を感じています。

また、印象が残った企業の認知機会は、ENGINEプログラムで行っている「大しごとーく」といったイベントや科目が高いスコアを示しています。また、就職後の自己成長機会については、重要とする人が約9割にのぼりました。さらに中小企業やベンチャーで働いて多様な仕事を任せられることに自己成長の機会があるという回答は約6割です。そしてENGINEプログラムに関連する科目やイベントに3つ以上参加した学生の方が、長野県での就職志向には有意な差が見られました。ただし、首都圏志向の学生にはそこまでの差は見られません。

多様な働き方、地方生活の豊かさ訴求を

全体のまとめとして、ENGINEプログラムによって企業の認知度、魅力への理解が向上するという評価となりました。また、出口一体型であるENGINEプログラムは、大学単独で行うプログラムよりも効果があるというアンケートケットが出ました。

今後の方向性として何を行うべきかについては、中小企業やベンチャーでの多様な働き方が自己成長を加速すること、企業の社会的価値、地方生活の豊かさを訴求すべきだと考えられます。

それを実行するために大学ができることは、ENGINEプログラムのように出口一体型のプログラムによって上記を訴求していくということを導き出しました。