グローカル人材に必要なのは地域の課題に向き合い、解決する能力【分科会①】

 分科会①では高知大学理事(地域・国際・広報・IR担当)・副学長の受田浩之氏、龍谷大学政策学部准教授の金紅実氏をスピーカーとして招き、「地域が求めるグローカル人材像とは? 〜地域の魅力を世界視点でupdateする〜」をテーマに意見交換しました。ファシリテーターは岡山県立大学副学長の末岡浩治氏が務めました。

地域と海外の往来が広い視野の獲得につながる

 分科会①では主に3つのテーマについて話し合いました。1つ目に末岡氏が取り上げたのは、グローカル人材にはどのような能力が求められるのかといった点です。これに対し、受田氏は「高知県は他の都道府県に比べ、人口減少や高齢化が10年から15年も先行して生じている課題先進県であり、大学としては課題解決先進県へと導いていく役割を果たしていこうとしている」と説明した上で、「どの地域も経験していない課題を解決するスキームを作ることができれば、それは将来的に日本各地、そして海外でも応用することができる。つまり、まずはローカルの課題にしっかりと向き合い、地域の人々と協力しあって解決に導いていける人材こそがグローカル人材と言える」と条件を挙げました。

 一方、金氏は軸足を地域に置くという考えに賛意を示した上で、「ふるさとの中国から日本に来たときに、自国のことがかえってよく見えた」という経験談を披露しました。さらに、「日本が70年代、80年代に経験してきた発展プロセスが、遅れて展開されている中国や台湾、韓国などを訪れることで、当時の日本の課題などを改めて見つめ直すことができる」と話し、地域と海外を往来することが広い視野の獲得に役立つという考えを示しました。

外国語スキルよりもまずはマインドの育成が重要

 また、「グローカル人材には外国語能力が必須か」という末岡氏の提起に対して、受田氏は「コミュニケーションの手段として極めて重要であることは言うまでもない」としつつ、「外国人が日本語を学んでくれているケースもあり、外国語を話せなくても何とかなる環境もある。これまでの学生の様子を見ていると、自らがその地域にもっと貢献したいと考えた時に、必要な言語を積極的に学ぶ姿勢が自然と出てくる」との見解を述べました。

 金氏も「必ずしも英語を前提にしなくてもいい」と同調し、「大事なのはグローカルに活躍できる人材として成長したいというマインドを育てること」と強調しました。

 二人の意見を聞いた末岡氏は「外国語能力が前提になると、学生が一歩を踏み出す際の足かせになる。まずマインドを育てれば、自ずと外国語を学ぶ意欲が湧いてくる」と賛同しました。

高知大・龍谷大含め日台10大学の連携へ準備着々

 末岡氏が2つ目のテーマとして提示したのは、それぞれの大学におけるグローカル人材の育成に向けた取り組みや成果でした。

 受田氏は四国とインドネシアの6大学で取り組む「SUIJIサービス・ラーニング」というプログラムを紹介しました。これは両国の学生が3週間ほど互いに農山漁村に滞在しながら現実の課題解決に合同で取り組むもので、年間40人が参加し、極めて高い効果を上げています。また現在、高知大学と龍谷大学を含めた日本の4大学と台湾の6大学による大がかりな連携のスタートに向けた準備が着々と進んでいることを紹介したほか、海外の学生に高知で学んでもらう研修プログラムに、希望する日本人学生を参加させる取り組み準備についても紹介しました。

 グローカル人材の教育を全学的に展開する高知大学に対し、金氏は「龍谷大学では学部や研究科ごとに取り組んでいる」と説明しました。中でも金氏が所属する政策学部で取り組むのが「RYU-SEI・GAP」と呼ばれる課外活動で、高齢化・孤立化が進む団地の課題解決、部落に住む子どもたちの学習支援、活気を失った商店街の活性化など、毎年5〜10のテーマを掲げて学生たちが自主的に活動しています。また、「政策実践・探求演習」では国内だけでなく、アメリカや中国、ドイツの大学と連携し、地域課題の解決に向けて学習を進めるPBL(課題解決型学習)を展開し、毎年150人が受講し、20人が海外で学んでいる実績を紹介しました。

アフターコロナ時代の教育はオンラインとのハイブリッド型で

 末岡氏が3つ目のテーマとして提示したのは、コロナ禍におけるグローカル人材教育です。これに対し、受田氏は「オンラインの活用が代替策になる」と述べ、既にオンラインを活用して日本の学生が地域の課題や魅力について発表し、海外の学生とディスカッションする試みを進めており、「学生からも達成感、充実感を感じられた」と好評を得ていることを紹介しました。また、将来的には実際の海外体験とオンラインを組み合わせたハイブリッド型の教育を想定していると見通しを示しました。

 金氏は人類は必ずコロナに打ち勝つことができるとした上で、それまで座して待つのではなく、オンラインでできることを前向きに検討すべきと話し、「実際に現地入りして学ぶことはもちろん大切だが、事前学習や事後学習ではオンラインを有効に活用すれば、より高い教育効果を期待できる」と力を込めました。

 最後に結びとして、受田氏は「地方創生推進士」という高知大発の資格を紹介し、「これにグローカルコースを新設して双方向の文化交流や人的交流を担う人材を育成したい」と意欲を見せました。金氏は今後、日本各地で外国人労働者が増加する見通しや日本が周辺国との関係を強化し共に発展していく必要性に触れた上で、「日本の教育のあり方としてグローカル教育は必要」と述べ、分科会を終了しました。

分科会①の動画を視聴したい方は下記からお進みください。
【動画】地域が求めるグローカル人材像とは?