新リーダー育成と同時に、 人としての成長も期待したい

ENGINEは始動した──3大学連携プロジェクトの可能性とは その2:富山大学


 

信州大学、富山大学、金沢大学といった北陸新幹線エリアの3大学によるまったく新しい履修プログラム「ENGINE」。さまざまな分野での地域産業のあり方を創造し、新しい働き方を創出する。

各大学の推進者に聞くシリーズ2回目は、富山大学の小熊規泰教授にご登場いただいた。

 


理系と文系が混在する特色を活かして

3県の3大学が連携して取り組む「ENGINEプログラム」。文部科学省が「大学による地方創生人材教育プログラム構築事業(COC+R)」に認定した事業の一つで、協働する信州大学、富山大学、金沢大学のうち、工学部が加わっているのは富山大学だけだ。今回お話を聞いた事業代表教授である小熊規泰教授も工学部。そもそもENGINEプログラムへ参画するきっかけとは何だったのだろうか。

「2015年から文部科学省が開始した取り組み『地(知)の拠点大学による地方創生推進事業(COC+)』で、私が工学科の共通プログラムを受け持っていました。リーダー育成の科目も始めていて、ENGINEプログラムにはその流れで参画したのです」

もともと富山県は「ものづくり県」として知られたところ。地元企業と縁の深い工学部は、地方創生のリーダー育成にも関わってきた。だから小熊教授も「COC+」の延長で行けるかなと思っていたそうだが、「ちょっと思惑が違いました」。文系学部も加わることになったのだ。全学を横断する教育プログラムゆえに、理系と文系の専門科目をどう採り上げ、組み合わせるか頭を悩ませたそうだ。最終的に、富山市中心部にある五福キャンパスの学部生であれば、容易に履修が可能となるようカリキュラムを整備した。

(※画像は小熊教授 オンラインインタビュー時のスクリーンショット)

教員も頭の切り替えが必要な時

富山大学のENGINEプログラムは理系文系の混在が特徴だが、カリキュラム以外にも大学側で意識を切り替えたことがある。

「働き方やこれからのビジネスを、新たな視点で考えていくのがこのプログラムの大きな目的です。そのためには、年寄りの教員は口を出さない方がいい(笑)。石川県の能登で里山海山のビジネス創出をやっていた、若い文系の先生を引っ張ってきました」

金沢大学の教員をヘッドハンティング。この越県プログラムには、もってこいの人材だろう。こういった混在は、異業種を取り込んで新しいビジネス形態をつくっていく流れとも大いに親和性がある。

「例えばドラッグストアで生鮮食品を扱い始めています。これまでのやり方ではやっていけない。ではどうしたら人は物を買ってくれるのか、そういうことを考えないと企業は生き残れない。コロナ禍になって、いっそう顕著になってきました」

2021年に入学した学生が就職活動に臨む頃には、企業のあり方も働き方も全然違うものになっている可能性がある。社会の変わり方が急加速している今だから、学習への取り組み方を、学生も大学も変えるタイミングに来ている。ENGINEプログラムは、そこに登場した革新的なスイッチなのである。

以前から行われてきた地域連携活動

強みの発見とその掘り下げで特色を訴求

ENGINEプログラムは、各県で力を入れている基幹産業(交通、食、インフラ、観光)を活かし、企業との連携を強めていくシステムを採る。強みを見つけ出し、その特徴を掘り下げる。関わっていく上で浮上する課題の解決にも当たる。

「4つのテーマの中ではインフラが強いと思っています。ものづくりで知られてきましたし、産業と社会をつなぐ環境整備も整っている。工学部は企業とのパイプもありますから」

この基幹産業の醸成が、信州大学林靖人教授の言う「テロワール」となる(『その1:信州大学編』を参照のこと)。もちろん富山県の場合は富山市のトラムに象徴される交通も特徴的な強みだ。名産や名勝にもスポットライトが当たっていくだろう。基幹産業の強みを浮き彫りにして、闘える体力を養う。

そしておりしも新型コロナウイルスが、東京への一極集中を止めようとしている。大学を卒業したら東京の企業へ、という流れが見直される。
「基本的に、東京には本社機能しかないですよね。秘書や管理部門以外は、どこにいても仕事ができる時代になりました。本社で働くというより、東京に住んでみたいんだろうと思います」

こういった働き方が当たり前になるからこそ、ENGINEプログラムで創出されるリーダーたちは実に重要な存在となる。

富山市内を縦横に走るトラム