新リーダー育成と同時に、 人としての成長も期待したい

新たなビジネスを創出する人材とは

カリキュラムの最初期に3大学共通の「トップリーダーを繋ぐ」という科目が組まれている。まずはリテラシー強化のための内容で、それぞれの地域で活躍するエキスパートたちが自分の事業や活動について語るものだ。これからの社会や産業に対する想いも込めてもらうという。ENGINEプログラムが育てるのも、こういったリーダーたちなのだろうか。

「新しいビジネス、ビジネスのあり方をつくってくれる人、という表現の方がしっくりきます。今カタチが見えているリーダーになることではない気がしますね」

工学部には、学生が製作したフォーミュラカーのレースを目指す「フォーミュラプロジェクト」、NHKが主催している全国ロボットコンテストといったプロジェクトがある。資金集めのため、学生が企業まわりをしてスポンサー探しをするのが伝統だ。「リーダー育成実践学」というカリキュラムの一環として行われている。このような経験が責任感を生むし、対企業との実績を築いてきた。

「それで自信を付けておけば、どこへ就職しても、自分は何をしたらいいかを理解して活動ができます。街に出て社会人と交流するという経験は、とても大きいんです」
新しい教育プログラムの中に、今まで培ってきたカリキュラムも効果的に取り入れている。

いろいろなことに気付けるタネを蒔く

ENGINEプログラムでは、3年次に課題解決型インターンシップが組まれている。このインターンシップに向けて「リテラシー強化フェーズ(1年次)」・「キャリア形成フェーズ(2年次)」で、さまざまな科目を履修する。そしてインターンシップを修了し、3大学学長連名のサーティフィケートをもらい、就職活動に入る。小熊教授曰く、「工学部の場合、課題解決型インターンシップは受け入れ先企業とのすり合わせが必要」とのことだが、2023年までには固めていくという。

「課題解決」の言葉は、他の科目にも冠せられている。

「授業でも課題を提示します。地域企業の社長が出すこともあります。例えば、エネルギー問題。カーボンニュートラル社会でのエネルギーについて考えなさいと。どんな解決案や提言が出るか、とても楽しみです」

自分たちの生活に即して考える力を付けさせる狙いだ。オンラインで他のグループの発表も見られるので、そこに気付きがあり、次なるアイデアのステップにもなる。
「普段からいろいろなことを感じていないと、アイデアは出てきません。通常の専門科目はもちろん大事ですが、座学だけをやっていては大成できないというのが持論です。誰もが同じ生活、同じ生き方をするわけではないので、いろんなことに気付けるようなタネをばらまいてあげたいですね」

最終的に価値を持つ、人としての成長

ENGINEプログラムは、地域における新たなビジネスの創造者を育成する。地域に対する高い意識を持った学生が集まることになるが、小熊教授が最も気にかけているのが「人間力」だ。

「学生たちには『仕事人間』になってほしくないんです。学生時代は豊かな人間関係を築いて、人間としてのあり方や生き方を培う。グループワークが多いですから、必然的にそうなるとは思います」

大学時代の方が親友をつくりやすい、と自身の経験からも言う。北陸新幹線開通後、やはり長野県と石川県からの学生が増加した。県境を越え、コミュニケーションのエリアがさらに広がる。

「間違っていてもいいから、とにかく何か発言してほしい。違う意見を戦わせることがディスカッションです。そこから人のつながりも生まれます」
こうして培われた人としての土壌に気付きのタネが芽吹き、花や実を付ける。人が育つということは、地域が育つこと。ENGINEプログラムの最終的な価値はそこにあるのかもしれない。

富山大学 小熊 規泰教授

【学歴】金沢大学大学院自然科学研究科システム科学専攻 修了
【学位】博士(工学)(金沢大学)
【専門分野】強度設計工学、信頼性工学、トライボロジー

 

※大学ジャーナルオンラインに掲載